【厳選】 怪談・都市伝説・怖い話まとめ

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山登り

   

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僕が高校二年の頃、友達とよく埼玉県の飯能に近い昔から有名だった岩登りの練習場に行きました。

536 名前:いわ 投稿日:2002/02/10 00:15

そこは基本的には私有地なのでしょうが、しっかりした岩質と、人口登攀の練習ができること、首都圏に近いことなどから早くから注目されていたようで、60年代には既に開かれていたのではないかと思います。

昔の安全性の不十分な装備で、よく登っていたものだと感心します。

岩登りは基本的に二人でやるもので、一人が登り、もう一人がロープを操作して万一の落下の際に備える、というチームプレイをします。

その頃は休日になると、登り待ちができるくらい人気のあるところだったのですが、やはり雨などがあるとあまり誰もきません。

その日も雨降りだったのですが、その頃僕たちはやはり若かったので、「今日は沢登りのつもりで」と秋の雨の中その岩場に向かったのでした。

駅から10分くらい歩くとその岩場の入口になります。

幅の狭い山道入口には小さく祀られた赤い社が建っていて、それが目印でした。

そこからまた山道を10分くらい歩くのですが、いつもはそれなりに陽光が漏れるその道もその日はさすがに薄暗く、ジメジメしていて、木々も何だかしなだれて、重くのしかかってくるようでした。

足下の熊笹も、いつもはカサカサと軽い音を立てて軽快なのですが、その日は静かで、しかも途中から霧がかっていたこともあって何だか嫌でした。

僕は夜明け前の真っ暗な山道も歩けるくらい恐がりではないのですが、その日の重苦しさはいつもと違っていて、正直気味悪かったです。

長雨の蒸し暑さも手伝っていたのかもしれません。

岩場は大きく二つの部分に分かれていまして

一つはスポーツクライミングの対象となることが多い方、もう一つが昔からやられている「岩登り」の舞台となる岩で、高さは20メートルちょいくらいのやや小柄な岩です。

着いてみると案の定、誰も来ていませんでしたので、二人で「さすがに今日は来ないか。待ち無しでいけるな」と喜んでいました。

だいたい、ちょっと登るのが難しいルートは指を置く場所、足を置く場所が限定されてくるため、古くからあるこの岩場では、指を置くスポットがツルツルに磨かれて年々難しくなっていくんじゃないかと思うのですが、そのルートを雨の日に登ってみたらどうだろう、というのがその日の一番の目的でした。

まずロープはつるべ式井戸のように、最初に岩の裏側からまわって頂上にロープをもっていき、そこを支点として端っこを下にたらし、両端を二人の腰に結んで、登る人と、落下を抑える人に分けるというやり方をすることにしました。

これの方が登る時安全なのですが、まだやり初めの頃、「ロープの支点は置き方を変にすると、落下時の岩との摩擦などで切れてしまうことがある、そういう事故が昔にもあったから注意するように」と常連さんのおじさんに教えられましたものでした。

そのルートは途中で身長くらいの長さでマイナス45度くらい反り返っているという所が売りで、それを超えてしまうと80度くらいの傾斜で、あまり難しくはありませんでしたが、高度感はそれなりにありますので、とりあえず一番上まで登るようにしようと思っていました。

最初、僕の相方が登っていたのですが、やはり反り返りの所で指がすべってしまうようで、何度も落ちては登り直しというのが続きました。

僕は勿論雨用のセパレートを着ていましたが、彼を待ちながら雨のじっとりとした感じが気になってしょうがなくなりまして、彼が一度下に降りてくると、ザックからシートを出して周りの木に結び、雨よけにしました。

この雨よけはとてもよかったのですが、その下にいると岩場の頂上のあたりがちょうど見えなくなり、安全上からもあんまり気味の良いものではありませんでした。

しかし、よく相手が見えなくなることはあることで、声をかけたりロープの流れで察したりすれば不自由はありませんので、別にシートの位置を変えることもせず、今度は僕が登ることになりました。

それにしても、その日はあんな低い山にも霧をかけていまして、雨なのか霧の粒なのかわからないくらいでした。

だいたい落ちる時には、「ああもうだめだ」と思ってしまうものですので、僕は絶対にあきらめないでずっと上を見続けようと決めていました。

問題の場所に近づいた時、まず右手を手がかりにかけ、その隣りに左手をおき、ぐいっと体を持ち上げました。この状態になると、足も反り返りの部分に入り、足をきちんと岩に接触させていないと非常に不安定な状態になります。

そして僕はわずかに覗く頂上部分をにらみながら体の安定を図り、次の一手に進もうかと考えていました。

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そうした僕の目線の先、頂上の所から突然ぬっと赤いセパレートを着た人が現れました。

僕は上の山道から降りてきた人が上の支点をみつけて興味本位で覗いてるな、と思い、「この非常時に悠長なおっさんだ!」という感じでにらみ付けながら、なんとかそこをクリアーすることに成功したのでした。

反り返りの部分の最後に手をかけ、宙ぶらりんになりましたが、後は体を引き起こすだけなので、そこを両手で持った瞬間に下の友達に「登ったぞ」と言いたげに、下を振り返りました。しかし残念ながら登り切ったところはシートが邪魔で彼からは見えず、ただ無言でロープが送られてくるだけだったのでした。

ちょっとがっかりしてまた上をむき直して上まで行き、頂上の支点の部分をタッチした後、「降りるぞー」と叫び、ロープにテンションをかけて下まで降りて行きました。

さっき見かけた人は、上に行ったときすでにいなくなってしまいましたが、雨音で足音なんて全く聞こえないし、「通りがかり」ということで、その時は僕は気にもせず、友達にネタをふったりもしませんでした。

それから何回もルートを変えたり、シートの下で休んだりして随分やっていたんですが、6時くらいだったか、なんだか暗くなり始めたということに気づき、「もうあがるか」ということになりました。

とりあえず僕が下でシートを片づけたりしながら相方が上に裏から登って頂上の支点をはずしにいくことになりました。

裏へは岩の脇から登ればよかったのですが、雨のために露出した土と岩肌がとても滑りやすく、僕は面倒だったので相方に行ってもらったのです。

彼はそういう所を登るのが得意だったので普通に引き受けてくれ、僕は早々にシートをかたづけ、タバコ吸って一息ついていました。

時々ぼたっとタバコの上に落ちてくる雨の滴を見ながら、それでも1分くらいの短い時間でしたか、暇をつぶしていました。

急にふと最初に登ったルートが気になり、もう一度登り方をみようと上を見上げて考始めました。

登り方はほぼ限定されているのですが、やはり登り方のコツみたいのがあるのでしょう、考えるほど煮詰まっていきます。

反り返りの所の最後の一手の部分を見ていると、ふっと相方の顔が覗きましたので「おお到着したか」と思い、「ロープ落としていいよ」と言いました。

しかし彼は何を考えていたのか、僕の顔をじっとみたままロープを落とそうとしません。

一瞬、「なに?」と思ったのですが、何だか食い入るように見られるその目に負けたみたいでその顔から目をそらすことができないまま、しばらくお互い無言になってしまいました。
彼は突然きびすをかえし、ふっと頂上の向こう側に行ってしましました。

何なんだろう?という気持ちになりましたが、まぁいい加減疲れてきたし、とも思いただロープを落としてくれるのを待ちました。

そのすぐ後「ロープ落とすぞ!」と上から声がしたので、やっとか、と思いながら「OK!」と言いました。僕が落ちてきたロープをまとめていると、金具をジャラジャラ言わせながら相方がすべり落ちてきました。どうもすべる裏道で相当苦労していたようです。

僕は彼が下りてくるなり、「なんでさっき下をぼーっとみてたの?」と聞きましたが、彼は「は?」と言いました。彼の話ではずっと坂道で往生していて随分長いこと上には行けなかったということでした。

僕は一瞬わけわからなくなって、「だってあのハング(反り返り)のところを見てたじゃん……」と言おうとして、突然頭をガツンと殴られたような衝撃を覚えました。

なぜなら、下をのぞき込んでた人が着てたセパレートは赤で、目の前の相方のそれは青だったからです。

一瞬パニックに陥り、どういう事だと考えてみました。他の登山者かとも思ったのですが、相方がロープを落としたのは、その人が見えなくなった本当にすぐ後でしたからそれもあり得ません。

だいたいその色は、最初に僕が登っていたときにみた色と同じものだったんです。

そして何とも言えず、無表情で無感情な感じのするあの視線……下からみたときには表情がはっきりみえたわけではありませんでしたが、あの視線の感じは忘れられません。

結局その人が一体なんだったのかということは、その後もわからずじまいです。

皆さんもご存知でしょうが、山にはこの手の話しはつきものですので、そこの常連さんにわざわざ話すことでもなく、相方にも話すこともなく、時々飲んだときとかに友達に言ったりしていたくらいです。

それから11年が経ちましたが、残念ながら僕の相方は山で亡くなってしまいました。

友達の死は初めてではありませんが、彼が山に散ったならばと僕の気持ちとしてもなんとなく昇華することができました。家族はかわいそうですが……

(了)

 

死霊怪談 [ 平山夢明 ]

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