【厳選】 怪談・都市伝説・怖い話まとめ

ネットで見つけた、都市伝説・怪談・ほんとにあった怖い話・世にも奇妙な物語・心霊系・不思議系・電波系・オカルト系のお話シリーズです♪

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叔父さんシリーズ【全話コンプリート】

      2017/06/19

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第一話 邪視

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これは俺が14歳の時の話だ。冬休みに、N県にある叔父(と言ってもまだ当時30代)の別荘に遊びに行く事になった。

本当は彼女と行きたかったらしいが、最近別れたので俺を誘ったらしい。

小さい頃から仲良くしてもらっていたので、俺は喜んで遊びに行く事になった。

叔父も俺と同じ街に住んでおり、早朝に叔父が家まで車で迎えに来てくれて、そのまま車で出発した。

叔父は中々お洒落な人で、昔から色んな遊びやアウトドア、音楽、等等教えてもらっており、尊敬していた。

車で片道8時間はかかる長旅だったが、車内で話をしたり音楽を聞いたり、途中で休憩がてら寄り道したり、本当に楽しかった。

やがて目的地近辺に到着し、スーパーで夕食の食材を買った。そして、かなりの山道を登り、別荘へ。

それほど大きくはないが、木造ロッジのお洒落な隠れ家的な印象だった。

少し下がった土地の所に、2~3他の別荘が見える。人は来ていない様子だった。

夕食は庭でバーベキューだった。普通に安い肉だったが、やっぱり炭火で焼くと美味く感じる。

ホルモンとか魚介類・野菜も焼き、ホントにたらふく食べた。白飯も飯盒で炊き、最高の夕食だった。

食後は、暖炉のある部屋に行き、TVを見たりプレステ・スーファミ・ファミコンで遊んだり。

裏ビデオなんかも見せてもらって、当時童貞だったので衝撃を受けたもんだった。

深夜になると、怖い話でも盛り上がった。叔父はこういう方面も得意で、本当に怖かった。機会があればその話も書きたいが……
ふと、叔父が思い出した様に「裏山には絶対に入るなよ」と呟いた。

何でも、地元の人でも滅多に入らないらしい。マツタケとか取れるらしいが。

関係ないかもしれないが、近くの別荘の社長も、昔、裏山で首吊ってる、と言った。

いや、そんな気味悪い事聞いたら絶対入らないし、とその時は思った。

そんなこんなで、早朝の5時ごろまで遊び倒して、やっとそれぞれ寝ることになった。

部屋に差し込む日光で目が覚めた。時刻はもう12時を回っている。喉の渇きを覚え、1階に水を飲みに行く。

途中で叔父の部屋を覗くと、イビキをかいてまだ寝ている。寒いが、本当に気持ちの良い朝だ。

やはり山の空気は都会と全然違う。自分の部屋に戻り、ベランダに出て、椅子に座る。

景色は、丁度裏山に面していた。別になんて事はない普通の山に見えた。

ふと、部屋の中に望遠鏡がある事を思い出した。自然の景色が見たくなり、望遠鏡をベランダに持ってくる。

高性能で高い物だけあって、ホントに遠くの景色でも綺麗に見える。

町ははるか遠くに見えるが、周囲の山は木に留ってる鳥まで見えて感動した。

30分くらい夢中で覗いていただろうか?丁度裏山の木々を見ている時、視界に動くものが入った。

人?の様に見えた。背中が見える。頭はツルツルだ。しきりに全身を揺らしている。地元の人?踊り?
手には鎌を持っている。だが異様なのは、この真冬なのに真っ裸と言う事。そういう祭り?だが、1人しかいない。

思考が混乱して、様々な事が頭に浮かんだ。背中をこちらに向けているので、顔は見えない。

その動きを見て、何故か山海塾を思い出した。

「これ以上見てはいけない」

と本能的にそう感じた。人間だろうけど、ちょっとオカシな人だろう。気持ち悪い。

だが、好奇心が勝ってしまった。望遠鏡のズームを最大にする。ツルツルの後頭部。色が白い。

ゾクッ、としたその時、ソイツが踊りながらゆっくりと振り向いた。

恐らくは、人間と思える顔の造形はしていた。鼻も口もある。ただ、眉毛がなく、目が眉間の所に1つだけついている。縦に。

体が震えた。1つ目。奇形のアブナイ人。ソイツと、望遠鏡のレンズ越しに目が合った。口を歪ませている。笑っている。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

目が合った瞬間、叫んでいた。涙が止まらない。とにかく、死にたい。異常なまでの鬱の様な感情が襲ってきた。

死にたい死にたい…半狂乱で部屋を駆け回っていると、叔父が飛び込んで来た。

「どうした!?」
「バケモン!!」
「は?」
「望遠鏡!!裏山!!」

叔父が望遠鏡を覗きこむ。

「~~~~~~ッ」

声にならない唸りを上げ、頭を抱え込む。鼻水を垂らしながら泣いている。

さっきよりは、少し気持ちの落ち着いた俺が聞いた。

「アレ何だよ!!」
「○○子~ ○○子~」

別れた彼女の名前を叫びながら、泣きじゃくる叔父。

さすがにヤバイと思い、生まれて初めて平手で思いっきり、人の顔をはたいた。

体を小刻みに揺らす叔父。10秒、20秒…叔父が俺を見つめてきた。

「邪視」
「じゃし?」
「いいか、俺の部屋の机の引き出しに、サングラスがあるから持ってこい。お前の分も」
「なんで」
「いいから持ってこい!!」

俺は言われるままに、サングラスを叔父に渡した。震える手で叔父はサングラスをかけ、望遠鏡を覗く。しばらく、望遠鏡を動かしている。

「ウッ」と呻き、俺に手招きをする。「グラサンかけて見てみろ」。恐る恐る、サングラスをかけ、覗き込む。

グラサン越しにぼやけてはいるが、木々の中のソイツと目が合った。言い様の無い不安がまた襲ってきたが、さっきほどでは無い。

だが心臓の鼓動が異常に早い。と言うか、さっきの場所では無い…ソイツはふにゃふにゃと奇妙な踊り?をしながら動いている。

目線だけはしっかりこちらに向けたまま…山を降りている!?まさかこっちに来ている…!?

「○○、お前しょんべん出るか?」
「は?こんな時に何を…」
「出るなら、食堂に空きのペットボトルあるから、それにしょんべん入れて来い」

そう言うと、叔父は1階に降りていった。こんな時に出るわけないので、呆然としていたら
数分後、叔父がペットボトルに黄色のしょんべんを入れて戻ってきた。

「したくなったら、これに入れろ」

と言い、叔父がもう1つの空のペットボトルを俺に差し出した。

「いや、だからアイツ何?」
「山の物…山子…分からん。ただ、俺がガキの頃、よく親父と山にキャンプとか行ってたが、あぁ、あそこの裏山じゃないぞ?山は色んな奇妙な事が起こるからな……
夜でも、テントの外で人の話し声がするが、誰もいない。そんな時に、しょんべんとか
撒いたら、不思議にピタッと止んだもんさ…」

そう言うと叔父は、もう一度望遠鏡を覗き込んだ。「グウッ」と苦しそうに呻きながらも、アイツを観察している様子だ。

「アイツな。時速何Kmか知らんが、本当にゆっくりゆっくり移動している。途中で見えなくなったが……
間違いなく、このロッジに向かってるんじゃないのか」
「じゃあ、早く車で戻ろうよ」
「多分、無駄だ…アイツの興味を俺たちから逸らさない限りは…多分どこまでも追ってくる。

これは一種の呪いだ。邪悪な視線、と書いて邪視と読むんだが…」
「さっき言ってたヤツか…でも何でそんなに詳しいの?」
「俺が仕事で北欧のある街に一時滞在してた時…イヤ、俺らが助かったら話そう」
「助かったらって…アイツが来るまでここにいるの?」
「いいや、迎え撃つんだよ」

俺は絶対にここに篭っていた方が良いと思ったが、叔父の意見は
ロッジに来られる前に、どうにかした方が良い、と言う物だった。

あんな恐ろしいヤツの所にいくなら、よっぽど逃げた方がマシだと思ったが、叔父さんは昔からいつだって頼りになる人だった。俺は叔父を尊敬しているし、従う事に決めた。

それぞれ、グラサン・ペットボトル・軽目の食料が入ったリュック・手持ちの双眼鏡・木製のバット・懐中電灯等を
持って、裏山に入っていった。暗くなる前にどうにかしたい、と言う叔父の考えだった。
果たしてアイツの視線に耐えられるのか?望遠鏡越しではなく、グラサンがあるとはいえ、間近でアイツに耐えられるのか?様々な不安が頭の中を駆け巡った。

裏山と言っても、結構広大だ。双眼鏡を駆使しながら、アイツを探しまわった。

叔父いわく、アイツは俺らを目標に移動しているはずだから、いつか鉢合わせになると言う考えだ。

あまり深入りして日が暮れるのは危険なので、ロッジから500mほど進んだ、やや開けた場所で待ち伏せする事になった。

「興味さえ逸らせば良いんだよ。興味さえ…」
「どうやって?」
「俺の考えでは、まずどうしてもアイツに近づかなければならない。だが直視は絶対にするな。

斜めに見ろ。言ってる事分かるな?目線を外し、視線の外で場所を捉えろ。

そして、溜めたしょんべんをぶっかける。それでもダメなら……
良いか?真面目な話だぞ?俺らのチンコを見せる」
「はぁ?」
「邪視ってのはな、不浄な物を嫌うんだよ。糞尿だったり、性器だったり……
だから、殺せはしないが、それでアイツを逃げされる事が出来たのなら、俺らは助かると思う」
「…それでもダメなら?」
「…逃げるしかない。とっとと車で」

俺と叔父さんは、言い様のない恐怖と不安の中、ジッと岩に座って待っていた。

交代で双眼鏡を見ながら。時刻は4時を回っていた。

「兄ちゃん、起きろ」

俺が10歳の時に事故で亡くなった、1歳下の弟の声が聞こえる。

「兄ちゃん、起きろ。学校遅刻するぞ」

うるさい。あと3分寝かせろ。

「兄ちゃん、起きないと 死  ん  じ  ゃ  う  ぞ  !  !」

ハッ、とした。寝てた??あり得ない、あの恐怖と緊張感の中で。眠らされた??
横の叔父を見る。寝ている。急いで起こす。叔父、飛び起きる。

腕時計を見る、5時半。辺りはほとんど闇になりかけている。冷汗が流れる。

「○○、聴こえるか?」
「え?」
「声…歌?」

神経を集中させて耳をすますと、右前方数m?の茂みから、声が聞こえる。

だんだんこっちに近づいて来る。民謡の様な歌い回し、何言ってるかは分からないが不気味で高い声。

恐怖感で頭がどうにかなりそうだった。声を聞いただけで世の中の、何もかもが嫌になってくる。

「いいか!足元だけを照らせ!!」

叔父が叫び、俺はヤツが出てこようとする、茂みの下方を懐中電灯で照らした。

足が見えた。毛一つ無く、異様に白い。体全体をくねらせながら、近づいてくる。

その歌のなんと不気味な事!!一瞬、思考が途切れた。

「あぁぁっ!!」
「ひっ!!」

ヤツが腰を落とし、四つんばいになり、足を照らす懐中電灯の明かりの位置に、顔を持ってきた。直視してしまった。

昼間と同じ感情が襲ってきた。死にたい死にたい死にたい!こんな顔を見るくらいなら、死んだ方がマシ!!
叔父もペットボトルをひっくり返し、号泣している。落ちたライトがヤツの体を照らす。意味の分からないおぞましい歌を歌いながら、四つんばいで、生まれたての子馬の様な動きで近づいてくる。右手には錆びた鎌。よっぽど舌でも噛んで死のうか、と思ったその時、「プルルルルッ」

叔父の携帯が鳴った。号泣していた叔父は、何故か放心状態の様になり、ダウンのポケットから携帯を取り出し、見る。

こんな時に何してんだ…もうすぐ死ぬのに…と思い、薄闇の中、呆然と叔父を見つめていた。

まだ携帯は鳴っている。プルルッ。叔父は携帯を見つめたまま。ヤツが俺の方に来た。恐怖で失禁していた。死ぬ。

その時、叔父が凄まじい咆哮をあげて、地面に落ちた懐中電灯を取り上げ、素早く俺の元にかけより、俺のペットボトルを手に取った。

「こっちを見るなよ!!ヤツの顔を照らすから目を瞑れ!!」

俺は夢中で地面を転がり、グラサンもずり落ち、頭をかかえて目をつぶった。

ここからは後で叔父に聞いた話。まずヤツの顔を照らし、視線の外で位置を見る。

少々汚い話だが、俺のペットボトルに口をつけ、しょんべんを口に含み、ライトでヤツの顔を照らしたまま、しゃがんでヤツの顔にしょんべんを吹きかける瞬間、目を瞑る。霧の様に吹く。

ヤツの馬の嘶きの様な悲鳴が聞こえた。さらに口に含み、吹く。吹く。ヤツの目に。目に。

さっきのとはまた一段と高い、ヤツの悲鳴が聞こえる。だが、まだそこにいる!!
焦った叔父は、ズボンも肌着も脱ぎ、自分の股間をライトで照らしたらしい。

恐らく、ヤツはそれを見たのだろう。言葉は分からないが、凄まじい呪詛の様な恨みの言葉を吐き、くるっと背中を向けたのだ。

俺は、そこから顔を上げていた。叔父のライトがヤツの背中を照らす。

何が恐ろしかったかと言うと、ヤツは退散する時までも、不気味な歌を歌い、体をくねらせ、ゆっくりゆっくりと移動していた!!
それこそ杖をついた、高齢の老人の歩行速度の如く!!
俺たちは、ヤツが見えなくなるまでじっとライトで背中を照らし、見つめていた。いつ振り返るか分からない恐怖に耐えながら……
永遠とも思える苦痛と恐怖の時間が過ぎ、やがてヤツの姿は闇に消えた。

俺たちはロッジに戻るまで何も会話を交わさず、黙々と歩いた。

中に入ると、叔父は全てのドアの戸締りを確認し、コーヒーを入れた。飲みながら、やっと口を開く。

「あれで叔父さんの言う、興味はそれた、って事?」
「うぅん…恐らくな。さすがに、チンコは惨めなほど縮み上がってたけどな」

苦笑する叔父。やがて、ぽつりぽつりと、邪視の事について語り始めてくれた……

叔父は、仕事柄、船で海外に行く事が多い。詳しい事は言えないが、いわゆる技術士だ。
叔父が北欧のとある街に滞在していた、ある日の事。現地で仲良くなった、通訳も出来る技術仲間の男が、面白い物を見せてくれると言う。叔父は人気の無い路地に連れて行かれた。ストリップとかの類かな、と思っていると、路地裏の薄汚い、小さな家に通された。叔父は中に入って驚いた。

外見はみすぼらしいが、家の中はまるで違った。一目で高級品と分かる絨毯。壺。貴金属の類…香の良い香りも漂っている。

わけが分からないまま、叔父が目を奪われていると、奥の小部屋に通された。

そこには、蝋燭が灯る中、見た目は60代くらいの男が座っていた。ただ異様なのは、夜で家の中なのにサングラスをかけていた。

現地の男によれば「邪視」の持ち主だと言う。

邪視(じゃし)とは、世界の広範囲に分布する民間伝承、迷信の一つで、悪意を持って相手を睨みつける事によって、対象となった被害者に呪いを掛ける事が出来るという。

イビルアイ(evil eye)、邪眼(じゃがん)、魔眼(まがん)とも言われる。

邪視の力によっては、人が病気になり衰弱していき、ついには死に至る事さえあるという。

叔父は、からかい半分で説明を聞いていた。この男も、そういう奇術・手品師の類であろうと。

座っていた男が、現地の男に耳打ちした。男曰く、信じていない様子だから、少しだけ力を体験させてあげよう、と。

叔父は、これも一興、と思い、承諾した。また男が現地の男に耳打ちする。男曰く、「今から貴方を縛りあげる。誤解しないでもらいたいのは、それだけ私の力が強いからである。

貴方は暴れ回るだろう。私は、ほんの一瞬だけ、私の目で貴方の目を見つめる。やる事は、ただそれだけだ」

叔父は、恐らく何か目に恐ろしげな細工でもしているのだろう、と思ったという。

本当に目が醜く潰れているのかもしれないし、カラーコンタクトかもしれない。

もしくは、香に何か幻惑剤の様な効果が…と。縛られるのは抵抗があったが、友人の現地の男も、本当に信頼出来る人物だったので、応じた。

椅子に縛られた叔父に、男が近づく。友人は後ろを向いている。

静かに、サングラスを外す。叔父を見下ろす。

「ホントにな、今日のアイツを見た時の様になったんだ」

コーヒーをテーブルに置いて、叔父は呟いた。

「見た瞬間、死にたくなるんだよ。瞳はなんてことない普通の瞳なのにな。

とにかく、世の中の全てが嫌になる。見つめられたのはほんの、1~2秒だったけどな。

何かの暗示とか、催眠とか、そういうレベルの話じゃないと思う」

友人が言うには、その邪視の男は、金さえ積まれれば殺しもやるという。

現地のマフィア達の抗争にも利用されている、とも聞いた。

叔父が帰国する事になった1週間ほど前、邪視の男が死んだ、という。

所属する組織のメンツを潰して仕事をしたとかで、抹殺されたのだという。

男は娼婦小屋で椅子に縛りつけれれて死んでいた。床には糞尿がバラ巻かれていたと言う。

男は、凄まじい力で縄を引きちぎり、自分の両眼球をくり抜いて死んでいたという。

「さっきも言った様に、邪視は不浄な物を嫌う。汚物にまみれながら、ストリップか性行為でも見せられたのかね」

俺は、一言も発する気力もなく、話を聞いていた。さっきの化け物も、邪視の持ち主だっという事だろうか。

俺の考えを読み取ったかのように、叔父は続けた。

「アイツが本当に化け物だったのか、ああいう風に育てられた人間なのかは分からない。
ただ、アイツは逃げるだけじゃダメな気がしてな…だから死ぬ気で立ち向かった。

カッパも、人間の唾が嫌いとか言うじゃないか。案外、お経やお守りなんかよりも、人間の体の方がああいうモノに有効なのかもしれないな」

俺は、話を聞きながら弟の夢の事を思い出して、話した。弟が助けてくれたんじゃないだろうか…と。

俺は泣いていた。叔父は神妙に聞き、1分くらい無言のまま、やがて口を開いた。

「そういう事もあるかもしれないな…○○はお前よりしっかりしてたしな。

俺の鳴った携帯の事、覚えてるか?あれな、別れた彼女からなんだよ。

でもな、この山の周辺で、携帯通じるわけねぇんだよ。見ろよ。今、アンテナ一本も立ってないだろ?
だから、そういう事もあるのかも知れないな…今すぐ、山下りて帰ろう。

このロッジも売るわ。早く彼女にも電話したいしな」

叔父は照れくさそうに笑うと、コーヒーを飲み干し立ち上がった。

第二話 アメリカ人にお経

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叔父さんから聞いた話にいくつか印象深い話があるので、書きたいと思います。

「00、アメリカ人の幽霊を、お経で成仏させられると思うか?」
叔父さんは唐突に聞いてきた。

「無理じゃない?」
「なぜ?」
「だって、お経知らないでしょ」
「それだよ」
叔父はニタリと笑った。

「もちろん、お経だろうがキリスト教の悪魔祓いの儀式だろうが、霊的な力はあると思う。だが、それよりも重要なのは、死んだ人間がどの文化圏に属し、どういう生活習慣を送ってきたかだと思う。例え、信心・信仰深くない人間でも、人生で何度かは、葬式や宗教の祭り、教会等に行った事はあるはずだ。そこで、そういう所でそういう儀式を見ている。つまり、『死んだ者等に対しては、そうやって奉る事が常識だ』と思っている。古来からずっと続いてきた事だ。それだけ人の思い、思い込みとも言っていいだろうが続けば、それは力を持つ。つまり、霊の側も、何となく成仏した気持ちになってるのかも知れない。全部が全部とは言わないがね」

「医者が、その症状には効かないビタミン剤とかを患者に渡し、患者が効くと思い込んで病気が治る、ってのに似てるね」
「そうだな。じゃあ、人生の前半をアメリカで過ごし、人生の後半を日本で過ごしたアメリカ人の霊はどうだ?」
「う~ん…両方効くんじゃない?」
「両方有効な可能性もあるが、最初に生まれ育った文化圏でのやり方の方が、有効な可能性のほうが高い」
「というか、霊がいるってのは、叔父さん信じてるんだ?」
「難しいな。そういう残留思念の様なモノはあると思う。俺も仕事柄世界中を回っているし、いくつも不思議なモノは見てきた。何とか説明がつくのが9割、どうしても分からないのが1割、かな。さっきの話に戻るが、宗教的な呪文や儀式を、彫刻刀に置き換えてみるといい。ド素人が彫刻刀を奮っても、凡作しか出来ないだろう。だが、才能溢れる人物が彫刻刀を奮えば、それは素晴らしい作品が出来上がるだろう。要は、呪文も儀式も媒体・触媒に過ぎず、それ自体にさほど効果があるわけではない、と言う事だ。優れた詩人が自分が作った詩を詠めば、それは不思議なな力を持つだろう。優れたミュージシャンが…も然り。49日とか何回忌とか、死者は別に坊さんのお経が聴きたいのではない。死者を想う家族の念や心、畏敬や感謝の気持ちが嬉しいのだと思う。だから俺の葬式には、辛気臭いお経など詠ませずに、ビートルズの曲を流す様に頼んである」
ビートルマニアの叔父さんは、そう言って笑った。

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第三話 死者に会える方法

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これは叔父さんがイギリスに滞在していた時に、現地のイギリス人の仕事仲間から聞いた話だ。

とある青年がいたと言う。学生で、同じ学年に付き合っている彼女がいた。

非常に仲睦まじく、お互い卒業したら結婚の約束までしていたと言う。

だが、ある日不幸が起きた。彼女が交通事故で死んでしまった。

彼女は歩行者で、運転手の脇見運転からなる悲劇の事故だった。

彼は病院に駆けつけた。死因は脳挫傷で、遺体は眠っているだけの様な本当に綺麗な物だったと言う。

彼は深く悲しみ絶望した。

葬儀は彼女の遺族らと共に、深い悲しみの中行われた。

彼は抜け殻の様になってしまった。

学校へもあまり出席せず、彼女と同居していた古いアパートに篭りっきりの生活をしていた。

少しでも彼女の思い出に触れていたいが為、居間・台所・風呂・玄関・寝室・トイレに至るまで、彼女との思い出の写真を置き、何時でも目に入るようにしていた。

そんな彼を心配して、友人達が良く部屋に出入りして励ましていたが、あまり効果は無かった。

2Fの真上の部屋は小さな教会になっており、彼と親しく割と歳も若い神父も励ましにやってきていたが、効果はなかった。

毎日、飢えない程度の粗末な食事をし、彼女の写真を見つめて過ごす日々が続いた。

ある夜。彼は、子供の頃に聞いた話をふと思い出した。

『死者と必ず会える方法がある』

その方法とは、時刻は深夜2時前後が良い。

まず、会いたい死者を思い浮かべる。その死者の遺品があればなお良い。

家の門を開けておく。ただし、家の戸締りは必ず完璧に施錠する事。

遺品を胸に抱き、蝋燭1本にだけ火を灯し、部屋の灯りを消し、ベッドに入り目を瞑る。

そして、死者が墓場から這い出てくるのを想像する。生前の綺麗な姿のまま……
死者がゆっくりゆっくり自分の家に歩いてくるのを想像する。

1歩1歩ゆっくりと…そして門を通り、玄関の前に立つのを想像する。

想像するのはそこまで。

そして、絶対に守らなければいけない事は、死者が何と言おうとも、『絶対に 家の中には入れない事』だった。

扉越しにしか話せない。何とも切ない事ではあるが、それがルールらしい。

青年は漠然とそんな話を思い出していた。

会いたい。迷信だろうが作り話だろうが。もう1度会って話したい。

もちろん、迷信だとは頭では思っていたが、もしも彼女と話した様になった気がしたら、いくらか心も休まるかもしれない。

と、自分へのセラピー的な効果も期待し、それをやってみる事にした。

時刻は深夜2時ちょっと前。

オートロックなんて洒落た物は無いので、アパートの門を開けておく。

生前、彼女が気に入っていたワンピースを胸に抱き、蝋燭を灯し、部屋の灯りを消し、彼女の蘇りを想像した。

アパートは老朽化が激しく、2Fの真上の教会(彼の部屋の天井に当たる)から何やら水漏れの様な音がする。

ピチャッ…ピチャッ…彼の部屋のどこかに水滴が落ちているらしい。

そんな事はどうでも良い…集中して…生前の綺麗な姿で…彼女が微笑みながら…部屋にお茶でも飲みに来る様な……
ドンドン ドンドン
ハッと目が覚めた。いつの間にか寝ていたらしい。

ドンドン ドンドン
何の音…?隣の住人?隣人も夜型の人だから、うるさ
ド ン ド ン ! !  ド ン ド ン ! !
…違う。自分の部屋の玄関のドアを、誰かが叩いている。時計を見ると、深夜2時50分。

こんな時間に友人とは考えにくい。…まさか。さすがに冷汗が額を伝う。

蝋燭を手に持ち、恐る恐る玄関に近づく。

叩く音が止んだ。

「…誰?」
返事がない。

「◯◯か…?」
彼女の名を呼ぶが、返事が無い。

恐る恐る覗き穴から覗く。

長い髪の女が後ろを向いてドアの前に居る!!何者かが確実に居る!!
「◯◯なら答えてくれ…」
青年はふいに涙が溢れてきた。楽しかった思い出の数々が蘇る。

「寒い…」
ふいに女が口を開いた。

彼女の声の様な気もするし、そうではない気もする。

「寒い…中に入れて…◯◯」
女は青年の名を呼んだ。涙が止まらない。抱きしめてやりたい!!
青年はルールの事など忘れて、ドアを開けた。

女は信じられないスピードで後ろ向きのままスッと部屋に入った。

青年が顔を見ようとするが、長い髪を垂らし俯いたまま必ず背中を向ける。

青年が近づこうとすればスッと距離を置く。

「とりあえず、ベッドにでも腰掛けてくれよ…」
青年が言うと、女は俯いたままベッドに腰を落とした。

しかし、この臭い…たまらない臭いがした。彼女が歩いた跡も、泥の様なモノが床にこびり付いている。

しかし彼女は彼女だ。色々と話したい。

死人にお茶を出すのも妙な気がしたが、2人分の紅茶を入れ、彼女の横に座った。

蝋燭をテーブルに置き、青年は語り尽くした。

死んだ時苦しくはなかったか、生前のさまざまな思い出、守ってやれなかった事……
1時間は一方的に語っただろうか。相変わらず彼女は俯いたまま、黙ってジッとしている。

やがて、蝋燭の蝋が無くなりそうになったので、新しい蝋燭に変える事にした。

火をつけて彼女を照らす。

…おかしい。ワンピースの右肩に蛇の刺青が見える。彼女はタトゥーなど彫ってはいない。

足元を照らす。右足首にもハートに矢が刺さっている刺青。

というか、黒髪…??彼女はブロンドだ…言い様のない悪寒が全身を走る。

誰だ…!?
電気をつけようとしたその時、女が凄まじいスピードで起き上がり、青年の腕を掴む。

凄まじい腐臭。女がゆっくり顔を上げると、蝋燭の灯りの中に見たくもない顔が浮かび上がってきた。

中央が陥没した顔面。合わせ絵の様に左右の目が中央に寄っている。

上唇が損壊しており、歯茎が剥き出しになっている。飛び出ている舌。

青年は魂も凍るような絶叫を上げたが、女は万力の様な力で青年の腕を締め上げる。

女が何か呻く。

英語じゃない…ロンドンのチャイナタウンで聞き覚えのある様な…まさか…!!
彼女を轢いたのは在英の中国人女と聞いている…その女も即死している…こいつが!?殺される!!

青年がそう思い、女が顎が外れんばかりに損壊した口を大きく開けた瞬間、凄まじい雷か破裂音の様な音が室内にこだまし、天井が崩壊してきた。

女は上を見上げ、青年はとっさに後方に飛びずさる。

崩壊して落下する瓦礫と共に大量の水が流れてきた。

女は「ギッ」と一言だけ発し、瓦礫と大量の水に埋もれて消えた。

崩壊は天井の一部だけで済んだ様だった。

青年が唖然として立ち尽くしていると、上から寝巻き姿の若い神父が、驚愕の表情で穴を見下ろしていた。

その後アパートは、消防・警察・深夜に爆音で叩き起こされた野次馬達等で大わらわとなっていた。

調べによると、2Fの神父の教会兼自宅のバスタブと下の床が腐食しており、それが崩壊の原因だと言う。

ただ、確かに腐食はしていたが、今日の様に急に床ごとブチ破る様な腐食では無いという点に、警察消防も首を傾げていた。

さらに、神父は月に1度、聖水で入浴していた。その日、バスタブに浸っていたのは聖水だったという。

もちろん、青年は女の事など誰にも話さなかったし、瓦礫の下にも誰もいなかった。

ただ、血の混じった泥の様な物が一部見つかったという。

そして青年は不思議な事に気がついた。

部屋の至る所に散りばめていた彼女との思い出の写真立てが、全て寝室に集まっていたのだと言う。

まるでベッドを円形に囲む様に。

青年は部屋を覗き込む野次馬の中に、微笑む彼女を見た様な気がした。

第四話 ドルイド信仰

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ドルイドとは、ケルト人社会における祭司のこと。Daru-vid『オーク(ブナ科の植物)の賢者』の意味。

ドルイドの宗教上の特徴の一つは、森や木々との関係である。

ドルイドは、ヤドリギの巻きついたオークの木の下で儀式を執り行っていた。

柳の枝や干し草で作った編み細工の人形を作り、その中に生きたまま人間を閉じ込めて、火をつけて焼き殺し、その命を神に奉げるという、人身御供の祭儀も行っていた。

刑罰の一種として、森林を違法に伐採した場合、樹木に負わせた傷と同じ傷を犯人に負わせて木に縛り付け、樹木が許してくれるまで磔にするという刑罰もあった。

自分の叔父は仕事柄、船で海外に行く事が多かった。詳しい事は言えないが、いわゆる技術士だ。

1年の6~7割は海外(特に北欧)で仕事をしている様な人で、日本に帰って来ている時は良く遊んでもらったものだ。

今は既婚で、引退して悠々自適な生活を送っており、知識も豊富でバイタリティ溢れる快男児だ。

以前も2話程、叔父関連の話を書いているはずだ。その叔父にこんな恐ろしい話を聞いた。

当時叔父は30代で、彼女とマンションに同棲しており、幸せに暮らしていた。

ひょんな事からお隣さんと親しくなったらしい。お隣さんは年配の夫婦で、病気の子供が1人。

旦那さんも仕事柄、海外に飛ぶ事が多いとの事だった。

話題も合うという事で叔父とは意気投合し、その奥さんも温厚で、夕食を呼んだり呼ばれたりする仲にまでなったそうだ。

ある年の真冬。

そのご夫婦と賑やかな食卓を共にしていると、そのご夫婦の別荘の話題になった。

何でも、関東近郊の閑静な山奥に、別荘を1つ所有しているらしい。

近くには小川もあり、魚等も釣れ、年に1度は家族で病気の息子の療養がてら遊びに行くらしい。

どうやら今年は仕事の関係で行けなくなったらしく、叔父達に「良かったら使ってくれても良い」との事だった。

アウトドア好きな叔父は、喜んで使わせてもらう事になった。

そんな叔父と趣味も合った彼女も賛同したらしい。

そして翌年の年明け、叔父は彼女と共にその別荘へと向かった。

あまり舗装されていない山道を40分ほど登った場所にその別荘はあった。

別荘を目にした途端、彼女の溜息が聞こえたそうだ。感動ではない方の。

「ホント、掘っ立て小屋みたいな感じだよ。こっちは小洒落たロッジ的なモノを想像してたんだけどな。あの夫婦の説明を聞く限り、誰でもそう思うと思うよ」
叔父は苦笑しながら言った。

とにかく、その別荘はお粗末なモノだったらしい。

木造平屋で狭い玄関。猫の額ほどのキッチン。古びた押入れに入った布団。

暖炉がある広間がやや広い事だけは救いだったらしい。

来てしまったモノは仕方がないので、なるべく自分達が楽しむ事にしたと言う。

昼は川魚を釣ったり、近辺の林を散策し、野草を採ったり。

それらは夕飯には天ぷらとして食卓に並び、それはそれで楽しい夕飯だったそうだ。

「野草を採ってる時に、かろうじて遠くに別荘が見えるくらいの距離の、少しだけ森の深くに行ったんだが…その時に、ちょっと気になるモノがあってな。ナラ(楢)の木があったんだよ。クヌギなんだけどな。この森にクヌギの木って、ちょっと浮いててな。周りは違う種類ばかりだし、明らかにそこだけ近年植林したんじゃないかなぁ。上にヤドリギも撒きついてたよ。クヌギは、10年も経てば大きくなるからな。で、気味が悪いのが、そのクヌギに何か文字が彫ってあってな。オガム文字って言ってな。古代のドルイド(上記参照)等が、祭祀に使ってた文字なんだよ。横線を基準と見て、その上下に刻んだ縦や斜めの直線、1-5本ほどで構成されててな、パッと見文字には見えないんだが…ま、何て書いてあるかまでは分からんが、不気味ではあるよな。日本だぜここは」
叔父の様にオカルト方面に知識がある人から見たら、確かに不気味なのだろう。

そんなこんなで、その日の就寝の時に事件は起こった。

叔父が窓や玄関の戸締りを確認しようとしていた時の事だった。

「何で最初に気がつかなかったんだろうな。鍵がな、外側にも付いてるんだよ」
つまり、窓の内鍵とは別に、窓の外側にも鍵が付いているのだ。玄関の入り口の戸にも。
「これはヤバイと思ったな。部屋の中に家具が異様に少ないのも、実は気になってたんだよ。生活に必要最小限のモノだけ…それも、全て木造で燃えやすく…パッと思い浮かんだのが、ウィッカーマンだな」
映画にもなり、近年リメイクもされたのでご存知の人も多いと思うが、上記でも書いた様に、『柳の枝や干し草で作った編み細工の人形を作り、その中に生きたまま人間を閉じ込めて、火をつけて焼き殺し、神に捧げる』
と言うおぞましい秘儀が、古代ドルイドの祭儀であるのだ。

それを英語では『ウィッカーマン(wicker man)』、編み細工(wick)で出来た人型の構造物と言うらしい。

「彼女を不安がらせない様に、その事や鍵の事も秘密にし、俺だけ起きてる事にしたよ。全部の内鍵開けてな。そしたら、夜中だよ」
砂利を踏む音と、人の気配が別荘の外でした。

すかさず窓を開ける。例のお隣の夫婦の旦那だった。

「何をなさってるんですか?」
叔父に急に見つかり、厳しい声を投げかけられた旦那は、驚愕の表情でしどろもどろだったと言う。

「いや、その…大丈夫かなと…」
「大丈夫じゃなないですよ。その缶は何です?灯油の缶じゃないんですか?」
「い…いや…ストーブの灯油を、切らしちゃいかんと思ってね…」
「暖炉がありますよね?」
「いや…まぁ」

叔父は外鍵の事を厳しく追及した。

旦那が弁解するには、この別荘も人から譲り受けたモノで、外鍵はその当時からついていたらしい。

「信じるわけないわな。そんな気味の悪い家で誰が泊まりたがる?」
叔父はまったく旦那の言う事は信用しなかった。

外の騒ぎで寝ていた彼女も起きだし、不安そうな顔を覗かせていた。

「○○さん(旦那)…あんた、ドルイドの何かやってるんじゃないでしょうね」
「は…?何ですかそれは」
「とぼけたって良いんですよ?裏の森のクヌギ。良い薪になりそうだなぁ」
「な…何を言うんですか!!」
「あんた、俺らをウィッカーマンにして、捧げようとしたんじゃないのかっ!!」
「…」
「本当の事を言わないのならクヌギを切り倒す」と脅した叔父に対し、旦那は全てを話し始めた。

前にも述べた通り、この夫婦には重い病気の息子がいる。

治療法は、病の進行を遅らせる強い副作用のある方法しかない。

あらゆる方法を試したが、病は一向に癒える気配は無かった。

そんな藁にも縋る思いも極まった時の事。

15年前、仕事先で訪れたウェールズのある村で、ドルイドの呪術師に出会ったと言う。

そのドルイドの呪力が篭ったオークの木の苗を、大枚叩いて旦那は買い、日本へ持ち帰った。

そのドルイドから授けられた秘術は、『毎月6日に、白い衣装を見に付けオークの木に登り、ドルイドから譲り受けた(これも大枚叩いて買ったらしい)鎌で、オークに寄生しているヤドリギの枝を切り取り、生贄をオークの木に捧げる』と言うものらしい。

その祭儀の見返りの願いは言うまでも無く、息子の病を治す事だ。

「確かに、その日は1月6日だったなぁ…」
「生贄って…」
俺は恐る恐る叔父に聞いた。

「最初は小動物とかだったらしいよ。ハムスターとか、野良猫とか、犬とかな。クヌギの木の根元に埋めて。心なしか、大きな動物になればなる程、息子の病が良くなっている様な気がしたらしい。まぁ、そのドルイドに1杯食わされたんだろうけどな。でも、病気の子供を持つ、悲しい親の愛とは言えども、あんまりじゃないか?俺らを焼き殺そうとするなんて」
叔父は笑いながら言った。

それから、懇々とその旦那を説き伏せたらしい。

人を呪わば穴二つ。そんな事をしても何も良い事はない。

オカルト方面に詳しい叔父だけに、様々な知識も動員して旦那を説き伏せた。

「50にもなろうかと言うオッサンが、声上げて泣いてたなぁ。まぁ、俺らも殺されそうにはなったとは言え、その旦那の気持ちも分からんでもないからなぁ。同情心もあって。彼女も少しもらい泣きしてたかな。旦那も、クヌギも別荘も処分する事を約束してくれてな。明日にでも、特にクヌギの処分は俺ら同伴で」
「じゃあ、この件は、警察沙汰にもならずに一件落着、と」
「ところがなぁ。あのオークは(本物)だったんだなぁ」

何とか旦那を説き伏せて、暖かいコーヒーを飲みながら3人が落ち着いてきたその時、旦那の携帯が鳴った。

奥さんの声が否が応でも聞こえてきたと言う。ヒステリックな金切り声だ。

明らかに『殺したの?捧げたの?やったの?』と、傍の叔父にも聞こえて来たと言う。

あんなに温厚に見えた奥さんの方が、実はこの件では主導権を握っていたのだと思い、ゾッとしたと言う。

奥さんは東京のマンションから電話をしているらしい。

旦那はある程度は言い返してはいたが、奥さんの凄い剣幕に終始押され気味だったと言う。

たまりかねて叔父が電話を変わり、物凄い口論となった。

一時は殺されそうになり、まだ片方が殺意を剥き出しにしているのだから、激しい感情のぶつかり合いになるのは至極当然だろう。

叔父の彼女も先ほどの涙とはうって代わり、叔父に負けじと口論に加わったと言う。

「こりゃ将来尻に敷かれるなぁと思ったね。その時は」
叔父は苦笑しながら言った。確かに今は尻に敷かれている様だ。

やがて叔父がたまりかねて、警察、裁判沙汰をちらつかせる様になると、やっと奥さんも大人しくなり、しぶしぶ旦那の話も聞くようになってきたと言う。

一応、いざこざの一段落はついた。

さすがにその日は深夜になっていたので、その別荘で休む事になった。

「一応さ、話はついたけど、まさか眠るわけには行かないよな。あんな事されそうになって」
暖炉の広間で叔父と彼女が身を寄せ合って座り、離れた場所に旦那が申し訳なさそうに座っていた。

「明日、旦那の知り合いの業者に手伝ってもらい、クヌギの木は切り倒す事を約束してもらったからさ、それを見届けるまではな」
3人ともその日は寝ずに、朝を迎える予定だった。

夜もさらに深まった、午前3時頃だったと言う。

「ザッ ザッ ザッ」と、森の奥から何かが近づいてくる音が聞こえた。野生の動物か、野犬か。

コックリコックリと船を漕いでいた叔父も、その音に目が覚めた。

「明らかに人間に近い足音と気づいた途端、ゾッとしたね」
最初は奥さんが来たと思ったらしいが、あの電話を終えてからこんな短時間でここまで来れるわけがない。

いや、あの電話は実は近くからかけていたとしたら…もしくは他に仲間がいたとしたら…?
叔父は寒さなどお構い無しに全ての窓や戸を開け、アウトドア用のナイフを手に、臨戦態勢で息を殺していた。

「ザッ ザッ ザッ」という音は一向に止む事はなく、明らかにこの小屋に向かっている。

「それから10分後くらいかな。もうな、普通にこの小屋を訪ねて来るように、玄関の戸に立ったんだよ。足音の主が」
「○○?(妻の名前)」と旦那が叫んだ。が、すぐ驚愕から恐怖の悲鳴に変わった。

「奥さんの様で、奥さんじゃないんだよ。顔はほとんど同じなんだな。だが、生気が無いと言うか。で、この真冬に素ッ裸だぜ?でな、最初は旦那は、妻の様なモノの裸に驚いて声を上げたと思ったんだよ。違うんだよな。肌の質感も色も、木そのものなんだよ。で、もっと怖かったのは、左右の手足が逆についてるんだよ。分かるか?それが玄関に上がって来ようとしてな、右足と左足が逆なもんだから、動きがおかしいんだよ。上がり口に何度もつっかえたりして。それが何よりおそろしくてなぁ」
確かに想像するだけでもイヤな造形だ。

「彼女は絶叫してたな。旦那も、明らかに妻じゃないって確信したと思う。でもな、一応人間の形はしてるんだからさ。刺せないぜぇ?なかなかそんなモノを。やっぱ、人間の心ってリミッターあるからさ。もし人間だったらどうしよう、とか思うよ」
それは確かに分かるような気がする。

「でな、その妻の様なモノがとうとう小屋の中に入ってきて、何か言うんだよ。それも、何言ってるか分からなくてな。カブトムシの羽音みたいな音を喉から出して。で、左右逆の足でヨタヨタしながら、俺の方に向かって来るわけだ。しかし、俺も真面目なもんだよなぁ。それでも最後に一応、『○○さんですかっ!?』って聞いたよ。さっきのリミッターの話な。それでも、ソイツは虫の羽音の様な耳障りな音を喉から発して、これまた左右逆の両腕を伸ばし、俺の首を絞めてきたもんだから、思いっきりソイツの腹を前蹴りで蹴ったよ。すると腹がボロボロ崩れて、樹液みたいな液を撒き散らし、腹に空洞が出来てやんの。それで決心出来たんだよな。あぁ、これは人間じゃないから、ヤッちゃって良いんだってな」
と、豪快に笑いながら叔父は言った。

こういう時の度胸を決めた叔父は本当に頼もしく見える。

不気味な声を発しながら、ソイツは起き上がって来たらしい。

叔父はナイフをソイツの脳天に1発、もう1度蹴り倒したら、空洞の腹を貫通し、胴体が千切れたらしい。

彼女と旦那の絶叫が一段と激しくなったと言う。

「で、腹の中から異臭のする泥やら、ムカデやら色んな虫がワラワラ出てきてさ。もう部屋中パニックだったな。床に倒れたソイツの人型も、段々ボロボロと崩壊していって、床には泥と虫だけが残ったね。気持ち悪くて、ほとんど暖炉に放り込んだな。突立てたナイフが、いつの間にか消えてたのが気になったけどな」

その凄惨な格闘が終わり、全ての残骸を暖炉に投げ込んだ後、すぐさま旦那に妻へと電話をさせたらしい。

妻はすぐに出た。

「妻は死んでいた!とか、やはりそういうのは心配するだろ。形が形だけに。元気だったけどな。まぁキョトンとしてたな。さすがに今起きた事は言わなかったけどな。後で旦那が話したかどうかは知らないが…でもさすがに、全て終わった後に恐怖が襲って来たね。手足とか震えて来てな。彼女はずっと泣いてたな。で、1番怖かったのは、彼女が暫くして変な事言い始めたんだよな。何でアレに『○○さんですか?』と問いかけたのかと。変な事聞くなぁと思ったね。顔はどう見てもあの奥さんなんだから」
「で、どういう事だったのかな?」
俺が聞くと、叔父は気味が悪そうにこう言った。

「『よく自分の形をしたモノの頭に、ナイフなんて突き立てられたね』って、彼女はこう言ったんだよ。つまり、彼女にはあの化け物が、俺の姿に見えてたんだよな」

叔父が想像する所は、次の様な事らしい。

古代ドルイドの秘儀で、オークの木に邪悪な生命が宿った。

それにあの妻の怨念も乗り移り、生贄が止まった事に見兼ねて、自ら実体化して現れたと。

そして、見る対象者によっては、あの化け物が様々な姿形に見えるのではないかと。

「翌日、日が真上に昇るまで待って、あの木を見に行ったよ。木の表面が2cm程陥没してて、1m60cmくらいの人型になってたな。そして、頭部らしき箇所に、俺のナイフが突き立ってたな」

やがて夕方になり、旦那の知り合いの業者がやってきて、クヌギを木を切り始めたと言う。

「最初にチェーンソーが入る時と、木が倒れる時、完全に聴こえたんだよ。女の絶叫がね。俺と彼女と旦那だけ聴こえた様子だったな。で、切り株と根っこまで根こそぎトラックに積んでたんだが、小動物の骨が出るわ出るわ。業者も帰りたがってたな。さっきの人型と良い、そりゃ気味悪いよな。まぁ、人骨が出なかっただけマシかぁ?」

後日、隣の夫婦がそれなりの品物を持って謝罪に訪れたと言う。

「受け取ってすぐ捨てたけどなぁ。やっぱり、色々勘ぐってしまうよな」
そして、すぐ夫婦は引っ越し、叔父たちもその後すぐにマンションを引き払ったらしい。
暫くして、叔父は彼女とは一時別れてしまったそうだ。

「そんな事もあったねぇ」
紅茶を飲みながら、叔父が懐かしそうに言った。

「そうだな…あぁ、そう言えば…」
叔父が庭の木を見つめて呟いた。

「ウチにもオーク、ナラのカシワの木があったな。縁起物だから、新築の時植えたんだがな。まぁ、アレだな。モノは使い様と言うか…人間の心次第と言う事かな。それがプラスかマイナスかで、有り様が変わってくるからな」

そして、叔父の話は終わった。

今度来るときは、カシワの葉で包んだ柏餅をご馳走してもらい事を約束し、その日は叔父夫婦の家を後にした。

(完)

 

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