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【沙耶ちゃんシリーズ】03 ナマてるてる坊主

      2015/07/06

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箪笥に、ばあさんが畳まれて入っていた。
かなり昔に読んだB級オカルトだが、意外に長いこと印象に残っている。

幽霊というのは、どんな形をして出てくるのだろう。
グロテスクな死体や、ありえない不気味な姿をしているのだろうか。
それなら沙耶ちゃんのような人間は、神経が参ってしまわないのか。

「ふつーですよ」
バックヤードの暗い照明でもわかるほど明るい笑顔で、沙耶ちゃんは答えた。
「気持ちの悪い霊は、見ないようにしていますから」
「へ?ってことは、見ないですむこともできるわけ?」と俺。
ちょっと前に彼女は、『自力で霊能力を出したり引っ込めたりはできない』と言っていたはずだ。
「んー……」
思案顔の沙耶ちゃんは、でも非常に的確な説明をしてくれた。

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例えば、様子のおかしい人間がいるとする。そんなとき、他人は目を逸らせるだろ。
沙耶ちゃんの場合、やばそうな空気を感じると、うつむいて周囲を見ないようにするんだそうだ。
もしくは、反対の方向に目を向けるか。
直接見てしまわない限りは、頭の中にイメージが浮かんでこようが、声を聞こうが、それほど怖くはないらしい。
霊に負けてる霊能者ってのが、沙耶ちゃんらしくてちょっと笑えた。

そんな沙耶ちゃんが、不意打ちを食らったことがあった。
彼女が小学生のときに、登下校の道の途中に豪邸があったそうだ。同級生の家で、父親は医者。

ある夏の日、沙耶ちゃんは日の暮れかけた時間に、1人でその家の前を通ったんだ。
学校は集団下校を推奨していたが、人付き合いの苦手だった彼女は、あえて遅くまで学校に残ることが多かったらしい。
鮮やかな夕焼けが、逢魔の闇を隠していた。
「明るかったから気が緩んでたの」と、今の沙耶ちゃんが説明する。

前方から1台の外国車が走ってきた。
ハンドルは国産仕様にしてあるらしく、右側の運転席に実年の男が乗っている。
授業参観などで何度も見たことのある、豪邸の主の父親だった。
そして助手席には子ども……とも言えない、色あせた何かが乗っていた。
車が近づき、沙耶ちゃんの真横をかすめた。助手席の物体が目の前に来た。
白に近いほど色の抜けたデニムのショートパンツ。元は黄色と黒だっただろう、汚れた横じまのTシャツ。
ひょろっと背の高い、4年生ぐらいの少年。
助手席に膝立ちになり、頭を天井につけていた。
正確に言えば……首が骨ごと折れ曲がり、天井からヒモで吊り下げられていた。

車は沙耶ちゃんから離れると、不自然に蛇行した。そしてすぐに、豪邸のブロック塀に突っ込んだ。
沙耶ちゃんは一連の光景をよく把握できないまま、車に駆け寄った。
運転席の父親は、フロントガラスに頭を打ってグッタリとしていた。
助手席の少年は折れた首をブルンブルンと振って、ヒモの呪縛から逃れようとしていた。
「事故のショックで泣いてたことにされちゃったけど」
野次馬が集まってきたとき、沙耶ちゃんは車のバンパー付近で、悲鳴をあげながら泣いていたそうだ。

「そりゃ……可哀相だったなあ」
現場を想像して同情すると、沙耶ちゃんはまた、バックヤードの暗い照明でもわかるほど明るい笑顔を見せた。

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