【厳選】 怪談・都市伝説・怖い話まとめ

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階上の母子

      2017/07/16

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自動車事故にあって鞭打ち症になった錦野さんは、仕事もできなさそうなので、会社を一週間ほど休むことにした。

錦野さんは結婚しているが、奥さんは働いてて昼間は一人だった。

最初の数日は気楽だったが、さすがに三日目くらいになると暇をもてあましてきた。

それでもどこかへ出かけるには体がつらいので、家でじっとしていなければならなかった。

そんなある日、お昼も過ぎた頃、ぼんやりとテレビを見ていると、上の階の部屋からドスンドスンと音がして、子どものはしゃぐ声が聞こえてきた。

学校が休みなのかといぶかしく思ったけれど、気にもとめなかった。

そして翌日も、昼頃から子どもの声が聞こえてきた。

どうやら上の家には子どもが二人いるようだ。

錦野さんが住んでいるのは大規模なマンション住宅地だが、昼間は意外とひっそりとしており、子どもたちの声は階下の錦野さんのところにもよく聞こえた。

しかし、うるさく感じることもなく、むしろ退屈さと団地の気味の悪い静けさを紛らしてくれるので、ありがたかった。

そして翌日、暇をもてあまし、昼食を作る気もうせた錦野さんはピザを注文した。

30分ほどでやってきたピザは思ったより量が多く、錦野さんは結局まる一枚残してしまった。

普通なら奥さんのためにとっておくのだが、ふと階上の子どもたちのことを思い出し、親切心も手伝って錦野さんは、上に持って行ってやることにした。

錦野さんは自分の真上の部屋に誰が住んでいるのか知らなかったが、呼び鈴を押した。

……気配を感じたが応答がない。

もう一度呼び鈴を押した。

のぞき窓から見られているような気がした。

かすかに「どなたですか……」という声がドアのむこうからした。

錦野さんは、階下の者であること、ピザが余ったのでもらってほしいことを話すと、ドアがかすかに開いた。

家の中はやけに暗かった。

5センチほどの隙間から、女性が顔を半分のぞかせた。

女性はひややかに言った。

「ありがとうございます。でもいりません」

うす暗くて顔の表情がよく見えない。

錦野さんは急に自分が場違いなところにいるような気がしてきたが、もう一度わけを話し、子どもたちにあげてくれるよう頼んだ。

ドアの隙間から生あたたかい空気が流れてきた。

……嫌な臭いがする。

ふと、女性の顔の下に子どもの顔がふたつ並んだ。

ドアはほんのわずかに開いたまま。

二人の子どものうつろな目が、こっちをじっと見ている。

三人の顔が縦一列に並んでいる。

「じゃあ……そう……いただくわ」

錦野さんはドアの隙間にピザの箱を入れると、すっと真横から手がのびてきてうけとった。

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3つの顔はドアの隙間から錦野さんを見つめている。

「ありがとう……」

かすかな声が聞こえた。

錦野さんはそそくさと退散した。

気味が悪かった。何かが違和感が頭の片隅にあった。

子どもの顔が脳裏に焼き付いている。

顔……

背中がぞくぞく震えだした。

……顔、並んだ……

足早になる。一刻も早くあの家から遠ざかりたかった。

エレベーターがこない。

……並んだ……縦に……

ボタンを何度も押すがいっこうに来る気配にない。

非常階段にむかう。

ひどく頭痛がした。吐き気もする。

非常階段の重い扉を開けるとき、錦野さんは背中に視線を感じた。

振り向くと、10メートルほどむこうの廊下の角に、三人の顔があった。

ドアの隙間から見たときと同じように、顔を半分だけ出して、うつろな目でこちらを見つめている。

冷え冷えした真昼のマンションの廊下にさしこむ光は、三人の顔をきれいに照らし出した。

錦野さんは首周りのギブスもかまわず階段を駆け下りだした。

普段は健康のためエレベーターを使わず、いっきに四階まで階段を駆け上がることもある錦野さんだが、上までが途方もなく長く感じられた。

……縦に並んだ顔……ありえない……

……体が……ない……

そして、顔のうしろにあった奇妙なものは……

頭を……支える……手……

そのあと錦野さんは、近くのコンビ二で警察を呼んでもらった。

警察の捜査によれば、錦野さんの階上の家では、その家の母親と子どもの死体が風呂桶の中から見つかった。

死体には首がなかった。首はのこぎりで切断されており、死後三日ほどたっていた。

その日のうちに夫が指名手配され、やがて同じ建物内で隠れているところを逮捕された。

母親と子どもの首もその男が一緒に持っていた。

男が発見されたのは彼の家ではなかった。

警官が血痕をたどっていったところ、彼が隠れているのを見つけたのだった。

警察によると、彼は錦野さんの家の押入れの中に潜んでいたそうだ……

(了)

 

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