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蛇の祟り~譚海より【古典怪談】

      2017/07/30

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官医、池原氏の弟子で、下野の者が江戸で久しく働いていた。

老後は国へ帰っていた。日光山の北にあたる、辺鄙な山里である。

ある日、裏山へ行こうとすると、長さ三間(約5.4m)はあろうかという蛇が横たわり、動こうとしない。

母や娘がとても怖がるので、しかたなく、竹で蛇の周りの草を、そっと払ったりするうちに、ようやく動き出して、山のほうへ去っていった。

それからこの蛇は、毎日医師の家の近くに来るようになった。居心地が好いのだろう。
家族のほうでは、ますます怖がり、どうか蛇が来ないようにと、修験者に頼んで祈祷させたが、効果はなかった。

ある朝早く戸を開けたところ、この蛇が庭にいて、縁側近くでとぐろを巻いていた。

家族が驚き騒ぐなか、例の修験者が通りかかった。飼い犬を連れていた。

「お札をください!」

呼び入れて、そう頼むと、修験者は自身の犬を、蛇にけしかけた。

犬は蛇に近づいて吠え、蛇は鎌首をもたげて犬を睨みつけた。

しゅうしゅうと息を吐いて怒るさまは、例えようもなく恐ろしかった。

犬はますます呻き、吠え、蛇は犬に食いつこうと、唸り、怒った。

ついには、お互いに息をつめたまま睨みあい、勝負が決まらないまま、朝から晩に移った。

家族と修験者は、食事も忘れて見守っていたが、あまりにも時間がかかるので、修験者が庭に降りた。

竹で蛇の咽を、突くともなく少し押してみると、蛇はそのまま倒れた。

息絶えているようである。

犬も同時に倒れたが、こちらは生きていた。

蛇は二、三日放置されたが、だんだん色が変わり、確実に死んでいる様子。

修験者と村の若い衆が憐れんで、音頭をとり、裏山に大きな穴を掘って埋めた。

その上に塚を盛って墓石を立てた。

蛇は長さ二間五尺(約5m)あった。もっこで三回に分けて運び、埋めたという。

それから間もなく、この修験者は胸を病み、まるで蛇が苦しむように、のたうちまわって死んだ。

ますます不吉に思われて、夜に外出する者もなくなるほど、怖がっていた。

ある日、隣村からこの医師のもとへ、治療を頼みにやってきた。医師はしぶい顔で、

「遠いですからな。帰りは夜になりましょう。このごろは、夜の外出をはばかっておりますし、そのうえ、川の渡し守も夜にはおりません。ちょっと、行けませんかな」

これを聞いて、例の若い衆が気の毒がった。

「一命にかかわることですよ。もし夜分お帰りならば、我々が川端まで迎えに参りましょう。渡し守はいなくても、船を出しますから」

「それならば」

医師は腰を上げた。

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案の定、川にさしかかる頃には、日が暮れていた。

声を上げて呼べば、向こう岸には若い衆が待ち受けていた。

急いで船を出そうとすると、竿が見当たらない。そこらの竹で代用しようと、しばらく提灯を近くの家の軒に吊り下げておいた。

すると一陣の怪風がさっと吹いて、提灯の火を軒に燃え移らせた。

慌てふためいて消そうとしたが、炎はしだいに勢いを増して、ついに一村くまなく全焼させた。

帰る家をなくした医師は、病人の家へ引き返し、二、三日泊まっていた。

その間に、村人は若い衆を捕縛すると、医師が泊まっている家へ連れてきた。

「このたびの出火は、まったくこの者たちの仕業であり、張本人は、あなたにほかならない。代官所へ訴えさせていただく」

医師も捕縛され、かれらは皆、牢に入れられた。

拷問の上、放火の罪が確定したのは、言うまでもない。

嘆き悲しんだのは、医師の母である。

ツテを頼って、とりなしてもらい、多額の賄賂のために土地をすべて売り払って、ようやく無罪放免となった。

が、牢を出たものの、田畑はなく、住む家もない。

おのずから土地を追われて、母と娘は他人に奉公する身となった。

医師も江戸へ舞い戻ると、困窮を極めた体でさまよい歩いていたところ、知人に行き逢った。

「いったい、どうなさったのです?」

という問いに、この物語をしたという。

「不幸な目に遭いましたが、しかしこれも、あの蛇の祟りなのでしょうなあ」

(了)

 

 

江戸奇談怪談集 [ 須永朝彦 ]

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