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師匠シリーズ 068話 引き出し(2)(3)

      2016/10/04

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068 師匠シリーズ「引き出し2」


「瑠璃ちゃんのベッドのそばに小さいタンスがあって、中に下着とか小物とかが入ってるんだけど、その引き出しのひとつが開いてるのね。夜寝る前には、全部閉まってたはずなのに」

この『初対面の人には声を聞かせません』とでも言いたげなキャラ作りに、だんだんと苛立ってきた。

格好といい、自分が普通じゃないことをそんなにアピールしたいのか。

俺の苛立ちを気にもせず、音響の通訳は続く。

俺はどっちの顔を見ながら聞いていればいいのか迷いながら、交互に視線を向けた。

「あれっ?変だなって思ってると、その開いた引き出しから何かがチラッと動くのが見えて、そこに意識を集中していると、ゆっくりじわじわ、なにか白いものが中から出てくるのよ。すぐに人間の手だってことはわかるんだけど、もちろん、誰かが中に隠れちゃえるような引き出しじゃないし、指が見えて、手のひらが見えて、手首が見えて、腕が見えて、肘が無くて、ズルズルありえないくらい伸びて。でも動けなくて。目が逸らせなくて。怖くて。それから、その手が何かを掴んで、またズルズル引き出しに戻っていって、ズルって全部隠れて見えなくなったら、やっと起きられるの」

デジャヴを感じた。

何故だろう。ゾクゾクした。この話はまるで、金縛中に起きるバッドトリップのようだ。もしくはただの夢か。

「それ、起きられるようになるまでは、ほんとに動けないのか?それから、起きられるようになるのって、急に?そこで、開けてたはずの目が、もう一度開いたような感覚がない?」

音響が通訳する。

動けないというよりは、動きたくないって感じの十倍濃縮版。起きるのは急に。そんな感覚ない。

『動きたくない』という感覚は、金縛りのパターンからは外れるようだ。

金縛りはたいていの場合、『動きたい』はずだ。

それに、入眠時幻覚の類にしても、朝の目覚めの時におこるというのはよくわからない。

そんなこともあるのだろうか。覚醒時幻覚とでもいうのか?

低血圧というのがそもそもあまりイメージがわかない。

それに、その『手』はなんだ。

「動けるようになってから、引き出しを見たらどうなってる?」

「開いたまま。中を覗いてみても何もない。下着とか靴下とかだけ」

「その手が掴んで、タンスの中に引きずり込んだものって、なに?」

「わからない。覚えてない。多分、それを見ている時には知ってたはずなのに、消えた時には思い出せなくなってる」

なるほど。何が無くなったかも分からないわけだ。

つまり、この出来事は、何も消えたものがなくても成立する。

ふと、以前読んだ本のことを思い出した。

そこには、夢は不要な短期記憶を脳の引き出しの奥深くに沈めて、頭の中を整理している最中に再生される、フィルムの断片なのだと書いてあった。

断片の中には脳を活性化させる強い記憶もあり、それらを合成し、理解しうるものに再構築されたものが、レム睡眠時に上映されているもので、そこからカットされた断片は、脳の記憶野を圧迫しないように、『忘れられていく』のだと。

それが本当のことかは知らない。

ただ俺は『引き出しの手』に、なにか寓意的なものを感じざるを得なかった。

「もしかして、その手が掴んでいったものって、自分にとって要らないものだったんじゃない?」

二人でボソボソと相談でもするように耳打ちしあってから、瑠璃は首を左右に振る。

「大切なものだったかも知れない。それさえ分からない。ベッドから体を起こして、自分の部屋を見回したら、何か大事なものを無くしてしまったような気がして、とっても悲しくなる」

今聞いているこの話が、単純に彼女たちの嘘ではないとしたら、気持ちの悪い話だ。ますますゾクゾクしてくる。

嫌いではない。この感覚は。

「それが、何度も続けて起こるのか」

「一ヶ月くらい前から。二、三日にいっぺん。あ、でも、最近は毎日かも、だって」

俺は少し考えた。カンカンと、使わなかったスプーンの柄で机を叩く。

「本当に何かが部屋から消えているのか、知る方法がある」

二人の少女がこちらをじっと見ている。

スプーンで目の前を払う真似をして続けた。

「その部屋から、ベッドと引き出し以外、全部外に出す」

少しして息を吸う音がかすかに聞こえた。

「そうすれば、もし手が出てきて、『何か』を掴んで引き出しに消えていったと感じたなら、その喪失感は錯覚だ、ということになる」

何も部屋になかったことは確認済みなのだから。

俺は上手いことを言ったつもりだった。我ながら良いアイデアだと思った。

けれど、瑠璃が体験したというその不可解な出来事を、夢、もしくはなんらかの幻覚だと半ば決め付けていた俺と、そうではない彼女自身との間には、大きな発想の隔たりがあったのだ。

瑠璃はふるふると震えながら、音響の耳元に口を寄せる。

「そんなことをして、手がどこまでも伸びてきて、ベッドの上の私を掴んだら……」

ゾクリとした。空気が張り詰める。

しまった。油断した。

経験上、過剰な怯えは、本人と周囲の人間に良くない影響を及ぼす。中でも一番困るのは、泣かれること。

「ひどい」と言って、音響が隣の少女をかばうような仕草をした。

そして「どういうつもり」と冷たく言い放ち、俺を軽く睨む。

どういうつもりも何も、俺は協力的に解決策を提出したつもりだった。

だがそれは、他人の悩みを真剣に考えないオトコという、不本意なレッテルを相手方に貼らせただけだった。

また、負い目だ。

この音響という少女には、いいように振り回されているような気がする。

「わかった。それはナシ」

肩を竦める。

結局、俺は気がつくと、その手の出てくるという引き出しのある寝室で、現地調査することを約束させられていた。

その二日後だ。曜日は土曜。

俺は欠伸をしながら自転車をこいでいた。まだ夜も明けやらぬ早い時間。

暗い空の深みのある微妙な色彩に目を奪われながら、微かな肌寒さにシャツの裾を気にする。

今日は暑くなるとニュースでやっていたはずなのに。

ガサガサと妙にかさ張る手書きの地図を苦労して広げ、目的地を確かめる。

なんだ。もうすぐそこじゃないか。

そう思いながら角の塀を曲がると、薄闇の中に浮かび上がる、小綺麗な白い三階建てのマンションが目に入った。

おいおい。高そうな所に住んでるじゃないか。

高校生の身分で一人暮らしと聞いて何様だと思ったが、もしかすると親がかなりの金持ちなのかも知れない。

駐輪場に自転車を停め、階段を上る。向かうは三階の角部屋だ。実にけしからん。

指定されたドアの前に立つが、まだ音響の姿が見えない。ちょうど待ち合わせの時間なのに。

まだ周囲は暗く、朝のこんな早い時間に、女性の部屋の前でうろうろしているのは実に気まずい。

辺りを気にしながら、念のためにドアノブを捻ってみたが、やはり鍵が掛かっている。

音響を待つしかないようだ。その場でしゃがみこむ。

何故俺はこんなところでこんなことをしているのだろう。そう思いながら、憂鬱な思いで額に指をあてる。

要は、寝起きにタンスの引き出しから手が出てくる幻覚を見るという、緑の目の令嬢瑠璃の悩み解決のための現地調査だ。

完璧を期するなら、ずっと部屋の中で寝ずの番をしていた方がよいのだろうが、初めて会ったうら若き少女の部屋で夜を明かすなど、俺にしても避けたいものがあった。

聞くところによると、目覚ましを掛けなくとも、彼女はいつもだいたい決まった時間に目が覚めるのだという。

ただ低血圧なもので、そこから起き上がるまでが長いのだとか。

そして俺と音響は、その目が覚める時間の少し前に部屋に行き、実際にその場でなにが起こっているのか確かめる、という作戦だった。

なのに、その音響が来ない。今日のために合鍵を渡されているのはヤツなのに。寝坊しやがったのか。

ドアの前でイライラしながら待つこと二十分。

小さな足音とともに、ようやく音響が姿を現した。

「アホか」

思わず毒づいていた。

近づいてくるその姿は、先日のカレー屋の時とほとんど変わらない、ゴシックな風体だったのだ。

待ち合わせの時間に遅れてまで譲れないのか、その格好は。

問い詰めて言い訳を聞くのも空しくなるだけなので、「いつも可愛いなあ」と嫌味だけ言っておいて、ドアを指差し開けろとジェスチャーをする。

音響はロクに謝りもせずに鍵を取り出すと、ドアノブにあてる。

金属が擦れる小さな音とともにドアが開かれ、二人してその中に滑り込む。

玄関からして広い。まずそこに驚く。俺の部屋とどうしても比較してしまう。

暗い中を半ば手探りで進む。もちろん足音を殺して。

余計な物音を立てて、中で眠る少女の普通の目覚めを妨げてはいけない、という配慮からだ。

音響が摺りガラスの嵌め込まれたドアの前に立ち、唇に人差し指を立ててみせる。

分かっている、と俺が頷くと向き直り、そっとノブを引いていく。

視界にわずかな光が差す。部屋のカーテンの隙間から、薄っすらとした朝日が漏れている。

もうすぐ夜が明けてしまう。余計な時間を掛けたからだ。

そう思ったのも束の間、目の前に広がる室内の様子に唖然とする。

ダイニングとリビングを兼ねたような間取りのかなり広い部屋に、所狭しと家具や物が並べられている。

明らかに普段の生活上のものではない。

部屋の真ん中や居住空間を侵すような場所に、それらが置かれていたからだ。

散らかってるのとは違う。強いて言えば、引越しの最中のような印象だ。

ただ、普段この部屋にあるらしい家具類は、きちんとあるべき場所に収まっているように見える。

要するに『多い』のだ。どこか別の場所から余分な家具が運び込まれているのか。

ハッとした。

二日前のカレー屋で話したこと。

『その部屋から、ベッドと引き出し以外、全部外に出す』

却下されたはずの俺の提案を、彼女は俺たちが来るのに合わせて実践してしまったのか。
見ていてくれている人がいるからと安心して。

嫌な予感がした。

その無造作に置かれた家具たちを、幾筋かの淡い光線が照らす。

音響が硬い表情で俺のシャツを引っ張る。その指さす先には、別の部屋に通じるドアがあった。

寝室か。

ゴクリと唾を飲み込む。

家具はこの向こうの部屋から持ち込まれたものに違いない。ということは、この向こうには………

 

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068 師匠シリーズ「引き出し3」

音響が静かにドアを開けていく。

後に続く俺の目の前に、薄暗い室内が広がる。手前の部屋よりもカーテンが厚いのか。

それでもそこには、夜明けの空気が満ち始めていた。

ガランとした部屋。異様な光景だった。

ベッドと小さなタンスだけ。あとはなにもない。けっして狭くない室内がさらに広く感じる。

そして、そのタンスの一番上の引き出しが開いている。

寒気がした。どこか遠くから耳鳴りが聞こえ、そしてフェードアウトしていくように消えていった。

ひっ、という息を飲む声がする。

音響が震える指で俺のシャツの裾を掴んでいる。

その視線の先にベッドの膨らみがある。その掛け布団の中から、小さな顔が覗いている。

その顔はタンスの方を見ている。首を捻った格好で。

目が、開いている。

まるで自分の意思ではないように、周囲の筋肉が強張ったまま、目が見開かれているようだった。

その目はタンスの一番上、一つだけ飛び出た引き出しを凝視している。

異常な気配が部屋を包んでいる。

俺と音響の息遣いだけが聞こえる。

二日前の話を聞いた段階では、夢の可能性が高いと思っていた。だが、現実には彼女の目は開いている。

ということは金縛りか。

だが………

今、この瞬間。

ベッドと引き出しの間の空間に、俺の目には何も見えないその空間に、彼女は何かを見ているのだろうか。

部屋の入り口で動けないでいる俺たちの前に、ベッドの中で動けないでいる少女の、声にならない悲鳴が響いて来るような、そんな幻聴さえするようだ。

だが、何も、何も見えない。

見えないのに。彼女の大きく開かれた目は今、何を見ている?

悲鳴が上った。

脳天を直撃するショックがある。音響が頭を抱えて叫んでいる。恐怖心に耐え切れなくなったのか。

だが次の瞬間、俺の身体は無意識に反応した。

自分でもよく分からないことを喚きながらタンスに駆け寄り、引き出しを殴りつけるようにして閉める。

それに引きずられるように動いた音響が、少し遅れてベッドの上の少女に覆いかぶさる。

「起きて、起きて」

叫ぶように繰り返す。

俺は背後のタンスを気にしながら、その様子を見守る。

やがて、硬直したように首を曲げて目を開いていた瑠璃が、ビクンと全身を震わせると、小さく息を吐いた。

「起きた?起きた?」

音響が掛け布団を剥ぎ取って、その肩を揺さぶる。

軽い痙攣のような震えがその顔に走った後、瑠璃は小さく頷いた。とりあえずは大丈夫のようだ。

俺は少し落ち着いて、タンスの方を振り返る。

あの異様な気配はどこかへ行ってしまっていた。柔らかな木目調の、ただのありふれたタンスだ。

それでも身構えながら、そっと一番上の引き出しに手を掛ける。

恐る恐る引いていくと中には、白い布が見えるばかりだった。暗くてよく見えないが、靴下の類のようだ。

恐れるようなものはなにもない。あの気配は錯覚だったのか。

その時、背後からまた悲鳴が上った。全く予期してなかったので、飛び上がるほど驚いた。

それでも振り返り、ベッドの方を見る。

音響が口を押さえながら、震える指先で瑠璃の右手首を指している。

パジャマの裾から細い手首が覗いているのだが、その異様なほど白い肌に、濃い痣がくっきりと浮かび上がっていた。

それは人間の手の平の形に見えた。手首を掴み、ありったけの力で握り締めたような痕跡………

泣き出しそうなほど怯えている音響に対し、当の本人はきょとんとして、事態を把握しているのかどうかも分からないような顔をしている。

低血圧の人間の寝起きだからなのか。

俺はとっさに暴漢の可能性を考えた。一人暮らしの女性の部屋に忍び込む不埒な輩。

だが入り口には鍵が掛かっていた。それはこの俺自身確かめている。

すぐにカーテンの隙間に手を突っ込み、この寝室の窓に鍵が掛かっているのを確かめる。

そして、二人を残したまま隣の部屋に移動し、すべての窓とベランダへの出入り口に、鍵が掛かっているのを確認した。

念のために、風呂やトイレの中も勝手に開けて、中に誰も潜んでいないか調べる。

広いとは言っても、所詮マンションの部屋だ。すぐに、俺たち三人以外誰もいないことは分かる。

ということは、俺と音響がやってくるまで、このマンションの部屋は密室状態だった。

そしてあの痣を見るに、ついてからさほど時間が経過していないだろう、ということを合わせて考えると、合理的に出せる結論は一つしかない。

俺はすぐに寝室に取って返し、まだベッドから起き上がらない瑠璃の右手首を掴む。

そしてじっくりとその痣の跡を見る。

特徴的な部分がある。四本の棒とその向かい側の一本の棒。その位置関係をしっかりと確認する。

左手だ。

彼女の右手の手首にこの痣をつけたのは誰かの左手。

そして、その誰かとは……彼女自身。

「なにするの」

音響が抗議の声を上げる。

これは自傷行為の一種なのか。

引き出しから出てくるという白い手も、彼女の妄想の産物なのだろうか。

あるいは、毎晩引き出しを開けていたのも彼女自身なのかも知れない。

自分のしていることを、まるで他人にされているように感じる精神障害があるらしいが、この少女もそういう心の病を抱えているのだろうか。

そう考えていると、逆にゾッとするものがあった。

だが次の瞬間、俺の目は信じられないものを見た。

瑠璃が、俺に掴まれた右手を取り戻そうとするように、もう片方の左手をのろのろと伸ばして来た時だ。

そのパジャマの裾がずれて手首が露になる。

そこには右手の手首と全く同じ形の痣が浮かんでいた。

思わず息を飲んだ。

痣。

左手首にも痣。

向かい合う四本の棒と一本の棒。思い切り握り締められたような跡。

左手首に左手の跡?
俺は自分の手の平を凝視して、人間の指の構造を確認する。

あの痣は間違いなく左手で付けられたものだ。

どうすれば自分の左手首に、左手で握った痣を付けられるんだ?

それとも、密室状態のこの部屋の中に彼女以外の誰かがいて、そして忽然と消えたというのだろうか。

俺は自分の背後にあるタンスに、再び異様な気配を感じた。

だがそれは、俺の錯覚に過ぎないのだろう。ただの恐怖心が生み出した幻に……

瑠璃はその自分の左手首の痣に気づき、そこにじっと視線を落としていたかと思うと、一言ぽつりと呟いた。

「He seemed to have come to this room……」

俺は彼女の顔を改めて見る。

その時、カーテンから射し込んだ光が、その瞳に反射してキラリと輝いた。

今さらのように気づく。二日前と目の色が違うことに。

あの時は確かにエメラルドグリーンだった。いかにもカラーコンタクトらしい安っぽい色をしていた。

けれど今、目の前にいる少女の目は、鮮やかなブルーだ。

カラーコンタクトをしたまま眠りはしないだろう。

いや、そういう常識を抜きにしても、それが彼女のナチュラルな目の色であることは直感で分かった。

「日本人じゃ、ないのか」

そう呟いた俺に、音響が横から口を尖らせる。

「だから通訳してたじゃない」

斜めに射し込む明け方の光の中に、人形のような顔をした少女が微かに微笑んだ気がした。

その後の顛末は、また別の機会に話そう。

この少女が持ち込んだ事件は、簡単に語れないほどやっかいな事態を引き起こして行くのだから。

そのためにはもう少し、それに関わる過去を掘り起こす必要があるだろう。

ただ、一つだけ付け加えることがある。

その土曜日から数日後、俺は古本屋に立ち寄った。

そこでふと思い出して、ルブランのルパンシリーズの小説を探してみた。また読みたくなったのだ。

だが、なかなか見つからない。

うろうろと店内を歩き回ることしばし。盲点だった入り口近くでそのコーナーを発見した。

しかしそこにあったのは、南洋一郎の翻訳による子ども向けのルパンシリーズだったのだ。

がっかりしながらも、小学生のころに何冊か読んだことを思い出して懐かしくなり、一冊抜き出して手に取ってみた。

やっぱり、今読むと平仮名が多く、表現も容易でなんだか違和感がある。

くすぐったくなり、棚に戻す。

そして、その近くのあったタイトルが目に留まった。

それを見た瞬間、笑い出してしまう。だって、おかしいから。

あの時カレー屋で音響が驚いたわけが分かったのだ。俺が『オーレリー』と呟いた時だ。

緑の目の令嬢とでも称えるべき瑠璃の容姿をあげつらった俺に対し、音響は『どうして知ってるの』と言った。

同じルパンシリーズを読んでいる人間だと、お互いここで分かったわけだが、その時の彼女の言葉のニュアンスは、俺がそう受け取ったように、『どうしてあなたもその小説を読んでるの』という単純なものではなかったらしい。

そこには、ある隠された真実を、一目で見破られたことへの驚きが込められていたのだ。

俺は笑いながら、そのタイトルの背表紙を棚から抜き出す。通り過ぎる客が変な目でこっちを見ている。

本の中身を確認して、やっぱりと思った。

ドラえもんも見てないくせに、ルパンシリーズは読んでるなんて生意気だと思ったのだが、どうやら早とちりだったらしい。

音響は、この子供向けの南洋一郎訳のシリーズを読んだだけだったのだ。

俺が別の翻訳家による邦題、『緑の目の令嬢』として記憶していた本を、彼女は南洋一郎の翻訳によるタイトルで覚えていたらしい。

頁を閉じ、薄く埃を被っているその本の表紙を軽く息で吹く。

『青い目の少女』

なるほどね。

また、笑った。

(了)

 

有名人「都市伝説」[ 清水將大 ]

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