【厳選】 怪談・都市伝説・怖い話まとめ

ネットで見つけた、都市伝説・怪談・ほんとにあった怖い話・世にも奇妙な物語・心霊系・不思議系・電波系・オカルト系のお話シリーズです♪

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師匠シリーズ 063話~064話 怪物-結-下(4)・幕のあとで

      2018/09/26

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063 師匠シリーズ「怪物 『結』下4」

でも目を逸らせない。

眼鏡の男が腰の引けたまま、ゴミ袋の上部に出来た破れ目に指をかける。さっきの猫の仕業だろうか。

ガサガサという音とともに、中身が月の光の下に現れる。

土気色の肌。

目を閉じたまま口を半開きにした幼い女の子の顔が、ゴミ袋の破れ目から覗いている。

生きている人間の顔ではなかった。

それを見た瞬間、全身の血が沸騰した。

足が土を蹴り、無意識に階段の方へ駆け出す。

けれど次の瞬間、前に回りこんだ何者かの手に肩を押さえられる。

遠慮のない力だった。目の前に顔が現れる。目深に被ったキャップの下の険しい表情。

「落ち着け」

その言葉が私に投げ掛けられるすぐ横を、眼鏡の男がなにか喚きながら駆け抜けようとする。

キャップ女は間髪要れずに右足を引っ掛け、眼鏡の男はその場に転倒した。

「なにするのよ」とおばさんが叫んで私の背中を押す。

その力は私の前進しようとする力と併わさり、じりじりとキャップ女は後退を始める。

「落ち着け。なにをする気だ」

なにをする気?決まってる。報復をしなければいけない。同じ目に遭わせてやる。

子どもをゴミ同然に捨てながら、202号室のドアの向こうにのうのうと生きているあの母親を。

「どきなさいよ」と、おばさんが上ずった声でキャップ女を怒鳴りつける。

すぐ横では眼鏡の男が立ちあがろうとする。

「クソッ」と呻きながら、キャップ女が右足を跳ね上げ男の顔面を蹴った。

ジャストミートはしなかったが、眼鏡が弾けるように宙に飛んで草むらに消えた。

「うわっ」と、眼鏡の男は両手で顔を押さえる。

足を上げたせいでバランスを崩したキャップ女が体勢を立て直す前に、私は掴まれた肩を振りほどきながら一気に突進した。

一瞬、押し返されるような強い反動があったが、堰が切れるようにその壁が崩れる。

3人が絡み合うようにひっくり返り、勢いあまったキャップ女の側頭部が、階段の基部のコンクリートに叩きつけられるのが目に入った。

私も地面に肘を強く打っていた。痛みに顔を顰めるが、すぐに立ちあがろうとする。

でも、なにかが太腿の裏に乗っている。邪魔だ。おばさんの胴体か。「アイタタタタ」じゃない。

すぐに部屋に行かないと。この頭を掻き回すざわめきが、どこかに去っていってしまう気がして。

いきなり服を引っ張られた。後ろからだ。首を廻すと、青い眼の少女が震えながら私の上着を両手で掴んでいる。

頭を振ってなんらかの否定の意を表現しようとしている。

「離せ」

そう口にした瞬間、なにか蛇のようなものが首の根元に絡みついた。

ついで、ぴたりとその本体が、私のうなじのあたりに接着する。

「悪いね」

そんな言葉が耳元で囁かれ、絡みついたものが私の首を締め上げる。狙いは気道ではない。頚動脈だ。

とっさに腕を背後に回そうとするが、もっと力の強い別のなにかが私の胴体ごと腕を挟み込む。

意識が遠のいていく。夜空には月が冷え冷えと輝いている。星はあまり見えない。

暗い。月も暗くなっていく。苦しいけれど、少し心地よい。

そこで世界はぶつりと途絶えた。

目が覚めたとき、私はベンチで横になっていた。額の上に水で濡れたハンカチが乗っている。

指で摘みながら身体を起こすと、銀色の光が目に入った。

公園だ。辺りは暗い。街灯に照らされた大きな銀杏の木の影がこちらに伸びて来ている。

キィキィとブランコが揺れる音がする。

「起きたな」

ブランコが止まり、そちらからいくつかの影が歩み寄ってくる。

「良かった。なかなか気がつかないから、どうしようかと思ったのよ」

おばさんがホッとしたような顔で言った。

「だから言ったろ。寝てるだけだって」

キャップ女が疲れたような動きで右手を広げる。

じわじわと記憶が蘇って来た。そうだ。私は裸締めで落とされたのだ。彼女に。

私は目を閉じ、ドス黒い感情が身体の中に残っていないのを確認する。

あれほど目標を破壊したかった衝動が、すべて体外に流れ出してしまったかのように、すっきりとした気分だった。

「ぼ、僕たちはあの子の思念に同調しすぎたんだ」と、眼鏡の男が言った。

「あ、あやうく、人殺しをさせられるところだった」

「ほんと勘弁して欲しいよ。3対1だったんだから。おっと、あの青い眼のお嬢ちゃんも入れて3対2か。

まあ、手荒な真似して悪かったな」

力なく笑うキャップ女に、眼鏡の男が頭を下げる。

「いや、おかげで助かった。ありがとう」

その眼鏡のフレームは少し歪んでしまっている。

私はそのとき、キャップ女の頬を伝う黒い筋に気がついた。

こめかみから伸びる乾いた血の跡だ。転倒したときに階段の基部で打った部分か。

「ああ、これか。カスリ傷だ」

「痕にならないといいけど」と、おばさんが心配げに言う。

「他にもいっぱいあるし、いいよ別に」

そんなやり取りを聞きながら、私は肝心なことを思い出した。

「あの子は、どうなったんですか」

一瞬、風が冷たくなる。

キャップ女がゆっくりと口を開く。

「現場維持のまま、撤退して来た。……おい、ここでまたキレんなよ。とにかく、ここから先は警察の仕事だ。わたしたちが動いていい段階は終わったんだ」

あの子を、あの子の死体を、ゴミ袋に入れられた状態のまま放置したのか。

思わずカッとしかける。

「あの子は、母親を殺さなかった。殺す夢を見ても、殺さなかった。最後まで、殺されるまで、殺さなかった。ギリギリのところで、そんな選択をした。わたしたちが、この街の人たちが、こうして静かな夜の中にいられるのも、そのおかげだ」

目に映る住宅街の明かりはほとんどなく、目に映るすべてが夏の夜の底に眠っている。

「ここに来るべきじゃなかった。そんな警告すらあの子はしていたような気がする。もう終わったことだ。招かれざる侵入者は、目を閉じて去るべきだ」

キャップの下の真剣な目がそっと伏せられた。

警告。そうか、あのコーンや道路標識はそのためなのか。

では、あのカラスとヒトがくっついたような不気味な生き物は?

誰もその答えは持っていなかった。分からない。分からないことだらけだ。

私は自分の住む世界のすぐそばで、目を凝らしても見えない奇妙なものたちが蠢いていることを、認めざるを得ないのだろうか。

子どものころから占いは好きだったけれど、心のどこかでは、こんなもの当たるわけないと思っていた。

それでも続けたのは、予感のようなものがあったからなのかも知れない。

100回否定されても、101回目が真実の相貌を覗かせれば、私たちの世界のあり方は反転する。

そんな期待を持っていたのかも知れない。

『変わってる途中、みたいな』

そうだ。私は変わりつつある。何故だか身体が武者震いのようなざわめきに包まれる。

その瞬間、背筋に誰かの視線を感じた。それも強烈に。誰もいないはずの背後の空間から。

キャップ女の身体が目にもとまらないスピードで動き、私の座るベンチの端に足を掛けたかと思うと、全身のバネを使って虚空に跳躍した。

そして闇の一部をもぎ取るように、その右手が宙を引き裂く。

一瞬空気が弾けるような感覚があり、耳鳴りが頭の中で荒れ狂い、そしてすぐに消え去る。

キャップ女の身体が落ちて来る。そして土の上で受身を取る。

「逃がした」

起き上がりながら指を鳴らす。

なにが起こったのか分からず、みんな唖然としていた。

「今、空中に眼球が浮かんでたろ?」

誰も見ていない。頭を振るみんなに構わず彼女は続ける。

「あれは、今回の件とは別だな。個人的なもの。あんたについてたんだ。心当たりあるか」

名指しされて私は混乱する。誰かに見られているような感覚は確かにあった。

先輩の家でポルターガイスト現象の話を聞いた夜。いや、その感覚はその前から知っている。なんだ?

視線。冷たい視線。笑っているような視線。表情を変えずに、微笑が嘲笑に変わって行くような……

私の中にある女の顔が浮かぶ。その女は私のことはなんでも知っていると言った。

そして、私が駆けずり回って調べたようなことを、まるで先回りでもするようにすべて知っていた。

はっきりとは言わないが間違いなく。

「気に入らないな。ああいう、顕微鏡覗いてマスかいてるような輩は」

キャップ女は口の端を上げて犬歯を覗かせた。

「迷惑なやつなら、シメてやろうか」

強い意志を秘めた炎が瞳の中で揺らめいている。私はそれにひとときの間、見とれてしまった。

「ま、困ったことになったら言えよ。私はいつでも――」

夜をうろついているから。

彼女はそう言って、ずれてしまったキャップを深く被り直し、私たちに背を向けて歩き始めた。

「そういやさ」

思いついたように急に立ち止まって振り向く。

「こんくらいの背の、若いニイちゃん、誰か見なかった?」

私たちのように、この住宅街までたどり着いた人間という意味だろうか?

全員が首を横に振る。

「あの、ボケェ」

キャップ女はそう吐き捨てる。

「じゃあこ~んな眉毛の、ゴツイ奴は?」

またみんなの首だけが左右に振られる。

「アンニャロー」

そう言っておかしげに笑い、「じゃあね」とまた踵を返して歩き出す。

「あ、そうそう。ケーサツ、電話しとくから。逃げといた方がいいよ。わたしたちみたいな連中は、こんなことに関わるとめんどくさいだろ。いろいろと」

前を向いたまま、高く上げた右手を振って見せた。

その影が公園の出口へ消えて行くのを見届けたあとで、残された私たちは顔を見合わせた。

「ぼ、僕も帰る。明日は朝から会議なんだ。じゃ、じゃあね」

眼鏡の男が踵を返そうとする。その回転がピタリと止まって、もう一度その顔がこちらに向いた。

「僕は、変なものを、よく見るんだけど。お化けとか、そんなの、だけじゃなくて、なんていうかな。その、もう一人のキミが、いるよね」

ドキッとした。秘密を覗かれた気がして。

「それ、きっと悪いものじゃないから。気にしないでいいと思うよ」

じゃあ、と言って彼は去って行った。

「あら、そう言えばあの外人さんの子どもは?」

おばさんがキョロキョロと辺りを見回す。

銀杏の木の影に二つの光が見えた。次の瞬間、太い幹の裏側にスッと隠れる。

「ちょっと。おうちまで送ってあげるから、わたしと一緒に帰りましょう」

おばさんが木の幹に沿って裏側に回り込む。まるで眼鏡の男が始めにしたような光景だ。

しかし、見つめる私の目の前で、おばさんだけが反対側から出て来る。女の子の姿はない。

「あら?いない」

狐につままれたような顔で、木の裏側を見ようとおばさんが再び回り込もうとする。

女の子が上手に逃げている訳ではない。

私の目にも、おばさんだけがグルグルと木の周りを回っているようにしか見えない。

女の子は忽然と消えていた。

「なんだったのかしら」

おばさんは立ち止まり首を捻っていたが、気を取り直したように私の方を見た。

「わたし、市内で占い師をしてるから、今度会ったらタダで占ってあげるわよ」

そう言ってウインクをしたあと、痛そうに腰をさすりながら公園の出口へ歩いて行った。

一人残された私は、今までにあった様々な出来事が頭の中に渦を巻いて、軽い混乱状態に陥っていた。

蛾が街灯にぶつかって嫌な音を立てる。

色々な言葉が脳裏を駆け巡り、目が回りそうだ。

その中でも、ある言葉が重いコントラストで視界に覆い被さってくる。

「救えなかった」

それを口にしてみると、ゴミ袋から覗く土気色の顔がフラッシュバックする。

そして暗い気持ちが、段々と心の奥底に浸透し始める。

ゴミ置き場に無造作に捨てるなんて、死体を隠そうという意思が感じられない。

まるで本当のゴミを捨てるようなあっけなさだ。

どんな家庭でどんな母親だったのか知らないけれど、精神鑑定とやらで、ひょっとすると罪に問われなくなるのかも知れない。

子どもを殺したのに。

いや、直接手を下したのかどうかは分からない。

だけど、彼女はしかるべき罪に問われるべきだ。

ふつふつとドス黒い感情が胸の内に湧き始める。

いけない。

顔を上げて深呼吸をする。呼吸の数だけ視界がクリアになっていく気がする。

また同じ過ちに身を委ねるところだった。

しっかりしないと。もう自分しかいないのだから。

ゆっくりと土を踏みしめ、公園の出口に向かう。そして、車止めのそばにとめてあった自転車に跨る。

終わったんだ。全部。

そう呟いて、夜の道を帰るべき家に向かってハンドルを切った。

雲に隠れたのか、月はもう見えなかった。

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064 師匠シリーズ「怪物 幕のあとで」

疲れ果て、最後の気力を振り絞って自転車を漕いでいた私は、家まであと少しという場所まで来ていた。

すべてが終わったという安心感と、なにもできなかったという無力感で、力が抜けそうになる足を叱咤して、どうにか前に進んでいた。

両側に家が立ち並ぶ住宅地だったが、街灯の数が足らないのか、いつも夜に通ると少し心細くなる一角だった。

その暗い夜道の向こうに緑色の光が見える。

公衆電話のボックスだ。子どものころの経験から、お化けの電話と呼んでいる例の箱。

今、その電話ボックスから、ヒトを不安にさせるような音が漏れて来ている。

DiLiLiLiLiLiLi……DiLiLiLiLiLiLi……と、息継ぎをするように。

それに気づいたとき一瞬ドキッとしたが、すぐにその正体に思い当たる。

またあの女だ。

私が帰る時間を見計らってずっと鳴らしていたのだろうか。

それとも今も、私の行く先をどこかで覗き見ているのだろうか。

どっちにしろ近所迷惑だ。こんな夜中に。

無視したいのは山々だったが、溜息をついて自転車を降りる。

内側に折れるドアを抜け、箱の中に滑り込む。ベルの音が大きくなった。

緑色の鈍重そうなそのフォルムを一瞥したあと、受話器をフックから外す。

そして、耳と顎をくっつける。

「もしもし」

私の呼び掛けに、受話器の向こう側で、誰かの呼吸音が微かに聞こえた。

「もしもし?」

もう一度繰り返す。耳を澄まして少し待つ。ようやく受話器から声が聞こえて来た。

『あなたはだあれ?』

間崎京子じゃない。

一気に緊張した。爪先から頭まで電流が走り抜ける。

『あなたは誰なのかな。若い子ね。同い年くらいかな』

聞いたことのない声だ。けれど、相手は若い女性であることだけは分かる。

『まあいいわ。言うべきことを言うね。……あなたは今、すべてが終わったと思っているわね。でもだめ。終わってないの』

淡々と語る口調は、いったいこの世のものなのだろうか。私の脳が生み出した幻覚ではないという保障は?

なんという名前だったか、あの近所の男の子。

お化け電話から声が聞こえると言って怯えて逃げ出した子。私の耳には聞こえなかった。

誰か今すぐここへ来て、私の代わりに受話器に耳をあててくれないか。

『あなたは死体の顔を見たわね。すっかり血が抜けたみたいに土気色をしていた。いったいどれくらい前に死んだのかしら。6時間?半日?一日?どちらにしても、きっとあなたが駆けつける前からとっくに死んでいたわね。そう、死臭も嗅いだはずよ』

なんだ?なにを言ってる?

なにを、言ってるんだ?

『あなたの、あなたがたの最後に見た夢は、いったい誰の見た光景なんでしょうね』

爪先から頭まで電流の走り抜けた場所に、今度は冷たい金属を流し込まれたような悪寒が発生する。

『終わってないのよ。途絶えたはずの意識に、続きがあった。そのかわいそうな子どもの魂は、肉体の檻から解き放たれて、今は夜の闇を彷徨っているわ。そして少しずつ、とっても恐ろしいものに生まれ変わろうとしている。それは檻の中にあっても、街中に手が届くような力を持っていた。名前はまだない。怪物に名前をつけてはいけない。きっと取り返しのつかないことになるから』

ねえ、聞いてる?受話器の向こうで、誰かが首を傾げる。

『あなたはもう一度、それに遭うことになる。そして病いにも似た刻印を押され、真綿で締められるような苦しみの中に身を置くことになる。忘れないで。今夜出会った人たちが、きっと助けになるでしょう。顔をよく覚えておくことね。あ、でもだめ。一人はいなくなる。“代が替わる”のね』

なにを言ってるんだ、いったい。

『わたしにも分からないのよ。ただ、こんな電話を掛けた、という記憶があるだけ。夢の中でわたしが話してるのね。それを再現してるのよ。運命が変えられるかどうかは分からない。でも、心構えをするってことが、大事になることだってあるでしょう』

クラノキ、と彼女は名乗った。

『顔も知らない人の夢を見るなんて珍しいな。きっといつか、あなたとわたしは友だちになるのかも知れないね。そのころのわたしは、今夜の電話のことなんて忘れてしまってるでしょうけど』

じゃあ、お休みなさい。そう言って電話は切られた。

混乱する頭を抱えて、私は電話ボックスを出る。

夢。まるで夢の中だ。なにが現実なんだろう。

ポルターガイスト現象の焦点だった少女が、エキドナが、怪物たちのマリアが、最期に恐ろしい怪物を産み落としたというのか。

それがやがて、私に苦しみをもたらすと?なんなのだ。どこからどこまでが現実なんだ。

目を閉じて、一秒数えよう。目を開けたら、他愛もなくありふれた土曜日の朝でありますように。

そのときだ。

目を閉じた私の中に、説明しがたい奇妙な感覚が生まれた。

それは言うならば、どこか分からない場所でなんだか分からないものが、急に大きくなっていくような感覚。

私の五感とは全く関係なく、それが分かるのである。

私は辺りを見回す。離れたところにあったはずの街灯がもう消えてしまって見えない。

大きくなってる。まだ大きくなってる。

熱を出したときに布団の中で感じたことのあるような感覚だ。

象くらい?クジラくらい?もっとだ。もっと大きい。ビルくらい?ピラミッドくらい?

もっと。もっと、大きい。

私は訳もなく涙が出そうな感情に襲われた。それは恐怖だろうか。哀しみだろうか。

道の真ん中で空を見上げた。

月が見えない。

大きい。とてつもなく大きい。山よりも。天体よりも。どんなものよりも大きい。

夜に鱗が生えたような。

呆然と立ち尽くす私の遥か上空をにび色の魚鱗のようなものが閃いて、音もなく闇の彼方へと消えていった。

薄っすらと目を開けて、シーツの白さにまた目を閉じる。

土曜日の朝。カーテンから射し込み、ベッドの上に折り畳まれる優しい光。

窓の外からスズメの鳴き声が聞こえる。

いったいスズメはなんのために囀っているのだろう。

ベッドの上に身体を起こす。

この私は昨日までの私だろうか。

あくびをひとつする。髪の毛の中に指を入れる。気分はそんなに悪くない。朝が来たのなら。

『運命が変えられるかどうかは分からない』という言葉が昨日の記憶から蘇り、羽根が生えたように周囲を飛び回り始めた。

もう一度寝そべって、シーツに指で文字を書く。

fate
暫くそれを眺めたあとで、手前にもう一つ文字をくっつけた。

no
それから私は久しぶりに笑った。

怖い夢は見なかった気がする。

(了)

 

怖すぎる話 真夜中の都市伝説/松山ひろし

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