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師匠シリーズ 055話 天使(4)

      2016/09/02

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055 師匠シリーズ「天使4」

あっという間に通り過ぎて見えなくなった彼女を、その残像を睨みつけて、私は心の中で暴れる感情を抑えていた。

その日の一時間目は英語の授業だった。

黒板の英文をノートに書き写している私の机に、丸めた紙がコツンと落ちて来た。

広げると、『やい、ちひろ。おかげでケーキふたつも食っちまったゾ。おデブちゃんになったらどうしてくれる `皿´』
という文面。

『スマン。スマンついでに昼休み、ちょっとつきあってくれ』と書いたノートの切れ端を返す。

『OK』の返事。

何事もなく時間は過ぎ去り、やがて昼休みを告げるチャイムが鳴った。

ざわめきが教室に広がるなか私は立ち上がり、高野志穂の席へ向う。

「ちょっと来て」

その瞬間、緊張したような空気が周囲に流れる。

私はかまわず、金縛りにあったように身を固くした高野志穂の腕を取って強引に立たせた。

「ちょっと、ちひろ」と言いながら近づいてきたヨーコにも、有無を言わせない口調で「一緒に来て」と告げる。

クラス中の匿名の視線を浴びながら、私は二人とともに教室を出た。

早足で校舎裏の秘密の場所に向かう。相応しい場所はそこしかないような気がしていた。

なにかぶつぶつ言いながらもついてくるヨーコは、不機嫌な顔を隠さなかった。

高野志穂は蒼白とも言っていい顔色で、足取りもふらついて見える。

私は彼女の腕をつかむ手に軽く力を込めた。しっかり歩け、と。

誰もいないその場所に着いて、私は高野志穂を壁側に立たせた。

今は遠くのざわめきも聞こえない。校舎の壁に反射して、陽射しが目に痛い。

白く輝きながら、夏がもうそこまで来ている。

「怖がらずに答えて欲しい」

高野志穂は生唾を飲みながら、それでもコクコクと頷く。

その目は正体なく泳いでいる。

「島崎さんが自殺しようとした理由を知ってるな」

頷く。

「そのことで、彼女は間崎京子の所へ相談に行ったな」

頷く。

「占ってもらった結果を知って、ショックを受けた彼女は思い余って手首を切った」

頷く。

「その絆創膏の下は、バレー部の練習でついた傷じゃないな」

頷く。

「島崎さんとあなた。二人とも誰かに恐喝されていたな」

……頷く。

「かなりの額のお金を脅し取られていたな」

頷く。

「他の人に言えば、もっと怖い人から酷い目に遭わされると?」

頷く。頷く。

「恐喝していたのは、こいつだな」

ヨーコが悲鳴をあげた。私が強い力で腕を引っ張ったからだ。

「ちょ、ちょっと、なに言うのよ、ちひろ。痛い。痛いって」

わめくヨーコの目の前で、高野志穂は今にも倒れそうな顔つきをしながら、しかし、歯を食いしばるように必死で頷いていた。

私は冷たい心臓が送り出す血が、体内でチロチロと低温の火を点しているようなイメージを抱きながら、言葉を続けた。

「あなたたちが私の方を怯えたような目で見ていたのは、いつも隣にいたこいつを恐れていたからだったんだな」

またヨーコが悲鳴をあげる。暴れる腕を遠慮ない力で捻りあげた。

「私は、あなたたちが想像したような人間じゃないから安心しろ。こいつを今こうしているのが証拠だ。だから答えてくれ。いつからだ。どうしてこいつに?」

高野志穂は震えながらも、やがてボソリ、ボソリと語り始めた。

自分と島崎さんは、奥さんと同じ小学校だった。

その頃二人は、奥さんとそのグループから酷い苛めを受けていた。

中学校に上がって、奥さんとは別の学校になれたが、やっぱりそこでも別の人たちから苛めを受けた。

もう、この輪から抜け出すには、自分が変わるしかないと思った。

高校に上ったら運動部に入って、引っ込み思案な自分の殻を破りたい。そう思っていた。
しかし、その生まれ変わる場所のであるはずの高校には、あの奥さんがいた。

あの頃の乱暴なだけの少女とは少し違う、狡猾な顔で。

小学校の頃に命令されるままにやった窃盗のことをバラす、などと理不尽なことで脅され、お金を要求された。

自分も島崎さんも、抵抗する気さえ起きなかった。

明るいにこやかな表情で、自分たちの腹や背中を殴り蹴りつける彼女に、冷酷で無慈悲な悪魔をダブらせた。

バレー部に入った私には、傷が目立たないだろうと顔まで殴った。

おかげで、顔から絆創膏がな取れるとはなかった。奥さんは、私だからまだいいんだ、と言った。

私の友だちがキレたら、おまえら“売り”をさせられるよ、と言った。

その友だちは他校の不良とつるんで、そんなことばかりしている本物の怖い人だと。

「ウソよ、ウソ。あんたなにウソ言ってんのよ。謝りなさいよ。ふざけんなよ」

わめくヨーコを壁に押し付け、耳元に顔を寄せた。

「おい。私が不良だのなんだのと噂を流したのは、おまえ自身だな。私がそんな噂に、いちいち弁解して回らないタイプの人間だと判断した上で。あの二人の様子に私が不審を抱いた途端に、そんな噂があるとバラして、恐喝の秘密から遠ざける……ずいぶんと知恵が回るじゃないか。でもな、ずっと学校を休んでいた子が、バレー部の練習にも出てないのに、絆創膏が増えてたってのはいただけないな。おまえらしくないミスだ」

学校を休んでいる間にも呼び出し、口止めを図っていたのだろう。

私に動きを封じられたままヨーコは、ガチガチと歯を鳴らして涙を浮かべている。

「なによ。なによ」

私を憎しみのこもった目で睨みつけながら、そんな言葉を口の中で繰り返している。

「金がそんなに欲しかったのか。ブランドものの服を買って、好きなものを食って。それが他人を踏みつけて得た金でも、なにも感じないのか」

ぺっと唾が頬に飛んできた。

目をつぶり、開けた瞬間、己の中の冷たい怒りの炎が、いつの間にか暗く悲しい色に変わっていることに気づいた。

「友だちだと、思っていたんだ、陽子」

ゆっくりとそれだけを言うと、私は彼女の頬を思い切り打った。

その勢いで身体を強く壁にうち、ヨーコは崩れ落ちた。

嗚咽が、丸めたその背中から漏れる。

「落ち着いたら、高野さんに謝るんだ。それから、島崎さんにも謝りに行こう。私もついていくから。それが済んだら……絶交だ」

ヨーコの背中にそんな言葉を投げかけ、高野志穂には「もう教室に戻りな」と言った。

それから私は、二人を残して駆け出し校舎の中に入った。一直線に間崎京子の教室へ向かう。

廊下でスレ違う平和ボケしたような女子生徒の顔がやけにイラつく。

「どけ」

そんな言葉を吐くと、相手は怯えたように道をあける。自分は今どんな顔をしているのだろう。

閉まっていたドアを乱暴に開けると、教室の中からハッと驚いたような気配が返って来た。

かまわずに間崎京子の元へ歩み寄る。

彼女は席に座ったまま、肘をついた両手の指を絡ませ、まるで来ることを知っていたかのように平然と私を見上げながら、薄っすらと微笑みを浮かべている。

「島崎いずみを脅していた相手を知っていたな」

答えない。

「事件のことで石川さんにカマをかけられた時、おまえはこう言ったな。“オリンピック・スピリッツ”と」

“オリンピック精神”と又聞きで伝えられた私には、その意味が分からなかった。

しかし、そう言い換えた石川さんは責められない。そちらの方が確かに馴染みのある言葉だからだ。

ただ、“オリンピック・スピリッツ”には、同じ響きでもう一つ別の意味があった。

この事件の真相を言い当てる意味が。

あの日。図書館で私は、天使の名前が網羅された事典を開いていた。

そこにおぼろげだった記憶の通りの名前が出てきた時に、私はすべてを知ってしまったのだ。

天使とは、ユダヤ教やキリスト教、イスラム教などに現れる、神の使いの総称だ。

それらの天使には階級があるとされ、多くの天使がそのヒエラルキーに取り込まれている。

ミカエルやガブリエルなどの有名な四大天使は、その名の通り大天使として第八階位、つまり下から二番目の低位につけられていたりする。

その九階位に属さない天使も数多くあり、様々な宗派によって、その役割も象徴する意味も異なる。

その中に、オリンピアの天使と呼ばれるグループがある。聖書ではなく魔術書に現れる天使だ。

その人間の役に立てるために使われるという性質は、どちらかと言えば天使というよりデーモンに近い。

日本語に訳される時も、『オリンピアの天使』とする場合もあれば、『オリンピアの霊』などと表記される場合もある。

英語では『Olympic spirits(オリンピック・スピリッツ)』とも。

それらは惑星を支配する存在とされ、それぞれに象徴される七つの星が当てられる。

水星はオフィエル。金星はハギト。火星はファレグ。木星はベトール。土星はアラトロン。月はフル。

そして太陽は――オク。

奥陽子。

その名前をあげつらって、間崎京子は言ったのだ。オリンピアの天使、オリンピック・スピリッツと。

黒魔術などのオカルトに詳しい人間でないと絶対に分からないだろう。

そういう人間だけに向けて、彼女は真相を発信したのだ。

すべてを知りながら。頼ってきた島崎いずみを言わば見殺しにして。

あまつさえ、剣の10という最悪の結末の暗示を本人に告げて。

私にはそれが許せなかった。知っていたならば、なにか出来ることがあったはずだ。

傍観者としてなにも行動しなかった私自分にもその怒りの刃は向いて、身体の中のどこかを傷つけた。

「太陽は。太陽のカードは、ケルト十字の二枚目に出ていたんだな」

答えない。

ケルト十字スプレッドにおける二枚目のカードは、一枚目の上に交差されるように置かれる。

それはやがて周囲に展開されるカードの並びの中で、十字架の真ん中の位置となる。

表すものは『障害となるもの』。

大アルカナ二十二枚のうちの、十九番目のカードである太陽(The Sun)は、正位置ならば『創造』『幸福』『誕生』etc. 逆位置ならば『破局』『不安』『別離』etc.
しかしこの場合、陽子という太陽を暗示させる名前そのものを指している。

少なくとも、島崎いずみ自身にとっては。彼女の悩みの根源を成す『障害』として。

そして、いつかの私に対する警告。

『恨みはなるべく買わないほうがいい』というあれは、すべてを見透かした上での言葉だったのか。

「彼女の手にした刃物は、結局自分に向かった。それは彼女自身の選択よ」

間崎京子の口から、音楽のように言葉が滑り出した。

「おまえは何様なんだ」

周囲から、固唾を飲んでこのやりとりを注視している無数の気配を感じる。

誰も表立ってこちらを見てはいない。しかし、その無数の悪意ある視線は、確実に私の心を削り取っていった。

「あなたも、まだあの子を救える気でいるなんて、おめでたいわね」

ヨーコのことか。なぜそんなことをこいつに言われなくてはならない。

「七つの星に対応する数多くの象徴の中で、七つの大罪がどういう配置になっているかご存知?」

表情はまったく変えていないのに、微笑が嘲笑に変わった気がした。

その時私は、この女をはじめて恐ろしいと思った。

「水星は大食。金星は欲情。火星は憤怒。木星は傲慢。土星は怠惰。月は嫉妬。それから太陽は――」

芝居じみた動きで彼女は指をひとつひとつと折り、七番目となった左の人差し指を、ゆっくりと折り畳みながら言った。

「強欲」

その言葉と同時に、私は彼女の机を両手で強く叩いた。周囲がビクリとして一瞬静かになる。

そこに冷ややかな言葉が降って来る。

「ねえ、わかるでしょう。彼女は、彼女自身の星からは逃れられないわ。この世界には、変わろうとする人間と、変わろうとしない人間しかいない。それはあなたのせいでも、わたしのせいでもない」

怒りだとか、悲しさだとか、悔しさだとか、そんな様々な感情が私の中で嵐のように渦巻いて、目の前にパチパチと輝く火花を発している。

私は唇を噛んで、この氷細工のような女を殴りたい気持ちを必死で抑えていた。

そんな私の姿を、一見変わらぬ笑みで見据えながら、彼女は誘惑するような甘い囁きでこう言った。

「かわりに、わたしがあなたの友だちになってあげる」

それが、間崎京子との出会いだった。

(了)

 

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