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師匠シリーズ 049話~050話 田舎(中編5)・雨音

      2018/09/27

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049 師匠シリーズ「田舎 中編5」

「電話しといた例の人たちです」

ユキオが玄関の中に体を入れながら、奥に向かって言葉をかける。

奥からいらえがあって、俺たちは家の中へ招き入れられた。

畳敷きの客間に通され、その整然とした室内の雰囲気から正座して待った。

廊下がきしむ音が聞こえ、白髪の男性が襖の向こうから姿を現した。

ユキオの小学校の先生だったというので、もう少し若いイメージだったが、70に届こうという歳に見えた。

先生は客間の入り口に立ったままで室内を睥睨し、胡坐をかいているユキオを怒鳴った。

「おんしゃあ、どこのもんを連れてきたがじゃ」

「え」と言ってユキオは目を剥いた。

俺は驚いて仲間たちの顔を見る。

先生は険しい表情をしたまま踵を返すと、足音も乱暴にその場から去ってしまった。

それを慌ててユキオが追いかける。

残された俺たちは呆然とするしかなかった。

しかし師匠は、妙に嬉しそうな顔をしてこう言う。

「あの爺さん、どこのモノを連れてきたのか、と言ったね。そのモノはシャと書く“者”じゃなくて、モノノケの“物”だぜ。あるいは、オニと書く鬼(モノ)か……」

師匠はくすぐったそうに、身をわずかによじる。

京介さんがその様子を冷たい目で見ている。

やがてもう一度襖が開いて、先生の奥さんと思しきお婆さんが、静々と俺たちの前にお茶を並べてくれた。

「あの」

口を開きかけた時、ユキオを伴って再び先生が眉間に皺を寄せたままで現れた。

入れ違いにお婆さんが襖の向こうに消える。

座布団をスッと引き寄せながら、先生は俺たちの前に座った。ユキオも頭を掻きながらその横に控える。

「で、」

先生は深い皺の奥から厳しく光る眼光をこちらに向けて口を開いた。

「先に言うちょくが、わしは本来おまんのようなもんを祓う役目がある」

その目は師匠を見据えている。

「その上で聞きたいことというがはなんぞ」

師匠は怯んだ様子もなくあっさりと口を開いた。

「いざなぎ流の勉強を少しさせてもらいました。密教、陰陽道、修験道、そして呪禁道。それらが渾然一体となっているような印象を受けましたが、陰陽道の影響がかなり強く出ているようです。明治3年の天社神道禁止令と、その後の弾圧から土御門宗家はもちろん、有象無象の民間陰陽師も、息の根を止められていったはずですが、 この地では、どうしてこんな現実的な形で残っているのでしょう」

先生は表情を崩さずに、「知らん」とだけ答えた。

「まあいいでしょう。法律の不知ってやつですか。そういえば『むささび・もま事件』ってのも、舞台はこのあたりじゃなかったかな。……話がそれました。ともかく、いざなぎ流はこの平成の時代に、未だに因縁調伏だとか病人祈祷だとかを真剣に行っているばかりか、“式”を打つこともあるそうですね」

「式王子のことか。……生半可に、言葉ばかり」

「まあ付け焼刃なのは認めますが。僕が知りたいのは、実は犬神筋についてなのです」

「わしらには関係ない」

先生は淡々と返す。

「まあ聞いてください。ご存知でしょうが、犬神筋というのは四国に広く分布する伝承です」

師匠は正座したまま語った。

曰く、犬神を祓うことのできるわざの伝わる場所には、それゆえに犬神が社会の深層に潜む余地があるのだと。

まして、そんな技法が日々の生活の中に織り込まれているこの地では、犬神もまた日常のすぐ隣に存在している。

「ここに来る途中、頭を釘で貫かれた蛇を見ました。明らかに呪いをかけるための道具立てです。もし仮に、誰かの使っている犬神の、その胴体を埋めてある秘密の場所を見つけられてしまったとしたら、その誰かは一体どうするのでしょうか」

師匠が言葉を途切れさせたその瞬間、みんなの手元に置いてある湯飲みが、一斉にカタカタと鳴りはじめた。

地震かと思い、とっさに電灯の紐を見る。

紐はわずかに揺れていて、外から光の射す障子の白い紙も微かに振動していた。

こぼれたお茶の雫を京介さんが指で掬い、じっと見つめている。

俺は、どうやらただの微弱な地震らしいと思ってなお、得体の知れない胸騒ぎがした。

揺れが収まってから、先生はゆっくりと口を開く。

「いね」

「え?」と問い返す師匠に、「帰れ、という方言です」と耳打ちする。

「それは、この地を去るほかないということですか」

師匠は急に立ち上がり、障子に近づくと骨に手をかける。

サーッと木が擦れる心地よい音とともに、眩しい光が飛び込んできた。

縁側の向こうでは、庭につくられた垣根の中で、鶏が地面をついばんでいる。

その様子を見ながら、師匠がボソっと言った。

「全然騒ぎませんでしたね」

さっきの地震のことを言っているのだと気づくまで、少しかかった。

確かに鶏の騒ぐ音はしなかった。

「なんとかなりませんか」

師匠の言葉に、先生は首を横に振るだけだった。

ユキオはよくわからないままに、オロオロしているように見えた。

「どうも僕は、ここではやたら嫌われてるみたいだなあ。フィールドワークのために、郷土史研究家だとか民俗学の研究者が、訪ねてくることだってあるでしょうに。そんな部外者もみんな追い返すんですか」

「人じゃのうて魔物がやってくりゃあ、つぶてで追い払うががつねじゃ」

「魔物と来たよ」

師匠は声になるかならぬかという小声で足元にこぼし、また顔を上げた。

「魔物と言えば、いざなぎ流では、目に見えない魔物を儀式に引っ張り出すために、“幣”という紙細工を作るそうですね。魔群というんですか。川ミサキだとか、水神めんたつだとか、蛇おんたつだとか。神様を模したものも多いようですが。それぞれに決まった形の幣があって、切り方・折り方は師匠から弟子へ、御幣集という形で伝えられると聞きました。ある資料で、何点か挿絵を見たことがあります。ヤツラオだとかクツラオだとか、おどろおどろしい怪物も、幣になってしまえば、随分可愛らしくなってしまうと思いました。……ところで」

師匠は障子を閉め、一瞬室内が暗くなる。

「犬神の幣がないのはどうしてですか」

誰の気配ともしれない、ハッとした空気が漂う。俺は固唾を飲んで師匠を見ている。

「どの資料を見ても出てこないんですよ。犬神を象った幣が。たまたまかも知れない。あるいは見落としかも知れない。でもどこか引っかかるんです。犬神は深く土地に食い込んだ魔物で、四国の各地に隠然と広がっている。いざなぎ流によって祓われる対象として、どうしてもっと目立っていないんでしょうか」

先生は師匠の視線を逸らすように天を仰ぎ、深く溜息をついた。

そしてそれきり目を閉じて、なにも言葉を発しようとしなかった。

「わかりました。いにますよ」

いにますって、使い方合ってるよね。

師匠は俺にそう言うと、先生に向かって頭を下げ、止める間もなく部屋から出て行ってしまった。

残された俺たちもいたたまれない雰囲気になって、腰を上げざるを得なかった。

出されたお茶に誰ひとり手もつけないままに、退散する羽目になるとは思わなかった。

と、俺の隣で京介さんが、目の前の湯飲みに手を伸ばし、一気に飲み干した。

帰れと言われた去り際にそんなことをするなんて、少し京介さんのイメージとはズレがあり、奇妙な行動に思えた。

すると立ち上がりざま、俺にだけ聞こえる声でこうささやくのだ。

「貸してるタリスマンは持ってきたか」

かぶりを振ると、独り言のように「気をつけろよ」と言って、部屋から出て行った。

俺はなにか予感のようなものに襲われて、自分の前に置かれた湯飲みを掴んだ。

冷たかった。

思わず手を離す。

出された時は確かに湯気が出ていた。間違いない。

あれからほんのわずかしか時間は経っていないというのに、一瞬のうちに熱を奪われたかのように、湯飲みの中のお茶は冷えきっていた。

まるで汲み上げたばかりの井戸水のように。

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050 師匠シリーズ「雨音」

大学2回生の秋の終わりだった。

その日は朝から雨が降り続いていて、濡れたアスファルトの表面はもやのように煙っている。

こんな日には憂鬱になる。気分が沈滞し、思考は深く沈んでいる。

右手には川があり、白いガードレールの向こうもかすかに煙って見える。

カッチカッチと車のハザードランプの音だけがやけに大きく響く。それだけが世界のリズムになる。

すべてがそのリズムで成り立っている。

俺はもう一度川を見た。

あのガードレールのこちら側に雨は降り、あちら側にも同じ雨が降りそそいでいる。

道に落ちる水と、川面に落ちる水。

見上げれば暗く低い空から、それでも数百メートルの高さをゆっくりと落ち、地表においてわずか数センチの違いで運命が分かれている。

このイメージが妙に可笑しくて、運転席でハンドルに頬杖をついている人に伝えた。

すると彼はめんどくさそうに口を開く。

「此岸と彼岸の象徴か。確かにこの世とあの世なんて、たったそれだけの違いだよ。けど、地中に染み込んでも川を流れても、いずれは海にたどり着く」

海。

俺にオカルトを教えた師匠が言うその『海』は、きっと『虚無』と同義なのだろう。

彼は死後の世界を認めなかった。

ここでいう死後の世界とは、地獄とか天国とか、そういうこの地上以外の世界のことだ。

なぜか認めないのかはよくわからない。けれど、頑なにそう信じていたのは確かだった。

夕暮れにはまだ少し早い。

俺と師匠は路肩にとめた車の中でずっと待っていた。

先日、雨の降る日に、師匠はここでなにか面白いものを見たらしい。

「いい雨が降っているぞ」

そう言って俺は呼び出され、そしてここにいる。

まるで刑事の張り込みだ。

そう思いながら、アンパンをひと齧りし、牛乳のパックを傾ける。

左手には空き地があり、草むらの中で誰かが置き去りにした一輪車が雨に打たれている。

誰も通らない。

ふいに師匠が口を開き、「仮に、生まれた時から地下室で育てられた子供がいるとして、 その子は地下室の外で自ら体験するまで、雨というものを知らないだろうか」

と、怖いことを言う。

「火よりも雨の歴史は古い。人間が猿だった頃から、いやそれ以前から、 地表で生きるすべての生物に、雨の記憶が宿っているんじゃないかって思うんだ」

遺伝子の奥深くに………そう言って、ガサガサとコンビニの袋を漁る。

もうアンパンしか残っていないのに、諦め悪くかき回している。自分がアンパンばかり買ったくせに。

雨の記憶か。

思考が再び、深く沈降していく。

動物は生得的に、自分にとって危険なものを見分ける力がある。捕食すべきものもまた。

それらに出くわした時、遺伝子に記憶された反応が起こる。

もっと原始的な生命にとっては、走光性や走水性がそれだろう。

同じように雨に対する反応も、生まれついてこの体の中に眠っているのだろうか。

気の遠くなるような過去から、連綿と受け継がれてきた記憶が。

はじめて雨を体験した時のことを思い出そうとする。

当然、そんなことを今の俺は覚えてはいない。

すべての人に聞いてみたい。

『はじめての雨はどうでしたか』と。

きっと誰も答えられない。誰もが体験したはずなのに。なんだか愉快だ。

もう一度、自分の記憶を探ってみる。

雨の匂いはいつも懐かしい。その懐かしさはどこから来るのだろう。

とりとめもないことを考えていると、師匠の欠伸にふと現実に還る。

「来たぞ」

雨の筋に霞む道の先に人影が現れた。

師匠は曇ったフロントガラスを袖で拭く。俺は目を凝らして前方を見つめる。

赤い傘が見えた。

続いて、その傘の柄を持つ女性の姿が浮かび上がって来る。表情まではわからない。

30がらみだろうか。服の感じからそう思う。そしてなにか嫌な感じがした。

すぐにその嫌悪感の正体に気づく。

傘をさして歩く女性のすぐ後ろに、5,6歳の女の子がついて歩いている。桃色の靴。黄色い帽子。

雨さえ降っていなければ、ごく普通の母親とその子どもに見えただろう。

だが、今は異様な光景だった。

傘をさす女性。その1メートル後ろを、俯きながら歩く傘を持たない子ども。

傘の下、寄り添うように歩いていれば、なんの違和感もないはず。

たった1メートルで、まるで此岸と彼岸だ。

「雨のせいか、鼻が利かない」

師匠はそう言って、食い入るようにそのふたりを見つめている。

やがて車の横を通り過ぎて、ふたりは再び雨の中に煙るように消えていく。

「あれは、生きている人間だと思うか」

俺に聞いている。

わからなかった。師匠にもわからなかったらしい。

もう姿は見えない。

曇ったままのリアガラスを拭こうと、シートを倒して手を伸ばすけれど、その手は宙に惑うだけだった。

「母親も娘も生身。母親は生身、娘は霊。母親は霊、娘は生身。母親も娘も霊」

師匠があまり感情を交えずにそう呟いた。

どれも悲しい。

なぜかひどく悲しかった。

息が詰まり、助手席の窓ガラスを少し下げる。

ザーッというきめ細かい雨音が、車の中に入り込んで来た。

ハザードランプのカッチカッチという、時を刻む音が小さくなる。

音も、風景も、心も、何もかもが雨に降り込められている。

こういう世界になってしまったみたいだ。

はじめて体験する雨がいつかは止むなんて、その時知っていただろうか。

ふと、すべての人に聞いてみたくなった。

(了)

 

黒丸ゴシック(2) [ 黒史郎 ]

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