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【沙耶ちゃんシリーズ】06 霊障2/3

      2015/07/08

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表面上は普通に話をしたが、内心かなり気まずい飯を終え、俺たちは店を出た。
午後6時。山に囲まれた市街地はすでに夜と言っていい。

車に乗る前に沙耶ちゃんに聞いた。
「もう1回、トンネルに戻っていいかな?」
かなり深い意味を込めて。
沙耶ちゃんはしばらく地面を見ていたが、小さな声で「はい」と答えた。

俺は俺の中にくすぶっている怒りが、沙耶ちゃんへの未練だと認識していた。
俺の理想どおりの振る舞いと、期待を高めてくれる言動の数々。愛しく思ってたからね。

それが『俺のためのパフォーマンスだった』と聞かされても、すぐには気持ちは冷めないわけだ。
『徳を積む』という考え方は、宗教がかっているとはいえ、真理を突いているような気がした。

善行を繰り返し、自分自身を善人として確信することができたなら、
世間に溢れてる些細な悪意なんかに、惑わされることはないだろう。
沙耶ちゃんらしい『強さ』の求め方だと思う。

それなら、沙耶ちゃんはどこまで善意を貫けるのかな。
もし……もし、俺が彼女に予想外の不利益をもたらしたとしたら……
俺はこのとき、沙耶ちゃんの同意不同意関係なく、トンネルに着いたら彼女を襲うつもりだった。

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山中のドライブは30分ほどかかる。
助手席で足を畳んで小さくなっている沙耶ちゃんの気を紛らわすために、
俺はトンネルで起こった事件の概要を説明し始めた。
「俺さ、フリーターになる前は、一応ちゃんと就職してたんだよね。ちょこっっっとマスコミ入ってる会社(笑)。
そのときの知り合いに、あのトンネルの事故事件の過去録を聞いてみたわけ」
沙耶ちゃんは無言で顔を向ける。
「そしたら、やっぱり陰惨なリンチがあってさ」と、>>653で書いた内容をそのまま伝える。
「そういう目に遭ったヤツなら、祟るのも無理ないと思うよ」
「……燃やされただけじゃ……ないと思います……」
沙耶ちゃんの口調は、今までに聞いたことがないくらい重い。
「背中から何回も刺されてて……骨が折れてもやめてもらえなくて……
もう死にたいって思ったときに、頭にだけ灯油をかけられて燃やされたの」
聞いてて心臓が痛くなった。さっきの記憶が再現される。
「熱くて錯乱してたみたいです。火を消したくてトンネルの中を走り回って……目も見えないのに……」
沙耶ちゃんは続ける。
「頭だけが燃えてるってわからなかったから、壁に体をこすりつけてたんです。血だらけになった背中を……
そしたら、皮膚がむけて壁に貼りついて……まだ血の跡が残ってました」
「水を供えてたのは、その現場だったんだ」
「はい……いろいろと教えてもらってました」
沙耶ちゃんは視線を遠くに移した。

トンネルに着いた……着いちまった。
とりあえずさっきの路肩に車を停め、エンジンを切った。日中の暑さが嘘のように、夜気は冷え切っていた。
頭の中で何度も手順は繰り返した。行使するタイミングを計る……
いやまあ、ふだんからそんなことばかり考えてたからさ(汗)。
沙耶ちゃんはシートベルトを外したが、膝を抱えたまま動かなかった。
「車から出ないの?」と、半ば祈りながら聞いた。わずかに理性は残っていた。
「まことさんが気がすむまでこうしてます」
沙耶ちゃんの言葉が、ことさらに偽善的に聞こえた。
俺は彼女の肩を押さえつけてシートに倒し、唇を貪った。沙耶ちゃんはかすかに呻いたが、抵抗はしなかった。
でも、薄い肩にはガチガチに力が入ってた。嫌がっている。
けれど止まらない。この機会を逃したら次はない。ひどくせっぱつまった欲求が俺を支配していた。
救われたい。委ねたい。恐怖から逃れたい。安らかになりたい。
俺の感情じゃねえよ、これ。
強引に身を起こして、沙耶ちゃんから離れた。
俺の中の何かが、彼女の上に戻ろうとして体を引っ張る。慌てて運転席のヘッドレストをつかんだ。
沙耶ちゃんは泣きながら、「……やっぱりこういうのはヤダ」と言った。
俺は車から飛び出した。

落ち着くまでの間に、2台ほど車が通り過ぎた。
1台はガードレールに腰掛けた俺にビビって、反対側の山肌に突っ込みそうになっていた。
新たなスポット伝説の始まりかもなw

対面に停めた車の中の沙耶ちゃんは顔を見せない。様子を見に行くこともできない。
だんだん腹が立ってきた。なんで俺はこんな寒いとこで、当てもなく待たなきゃならないんだ?!
……いや、全部俺が筋立てしたんだけどさ……orz
『あいつ』はまだ俺の中に残ってるんだろうか。どうしたら全部追い出すことができるかな……
成仏させればいなくなるのはわかってる。
だから、あいつになりきって考えないと。何が未練なのか。何をしたら満足して逝けるのか。
昼間の幻覚の中、あまりの苦痛に俺は『早く死にたい』と思ってた。
頭が焼け落ちたときは、恐怖よりも楽になれた喜びの方が大きかった。
だとすれば、もう死んでいるあいつに肉体的な苦痛はないってことか。
沙耶ちゃんを襲ったのはなぜだろう。霊も欲求不満になるのか??……いや、違う。真面目に考えろ。
『救われたい』『委ねたい』『恐怖から逃れたい』
激しい恐怖感と激烈な興奮状態が、最期のあいつには区別がつかなかったんじゃないか?

もう一つだけ思いつく浄化の方法がある。
俺は周りを見回した。あいつがどこにいるのか知りたかったから。でも、やっぱり俺には何も見えない。
仕方がないので、当てずっぽうの方向に向かって呼びかけた。
「カリノツヨシ、そのへんにいるのかい?」
あいつの名前だ。
……反応はない。返事ぐらいしろよなあ。
尻のポケットに入れておいた手帳を繰って、ページを読み上げた。
「正犯フジタユウヤ。現在近くのM市K町在住。妻、子ども2人あり。
共同正犯タカミシンヤ。現在○○県Y市Y町在住。妻、子ども1人あり。同じく共同正犯……(略)」
俺なら、だよ。俺なら、自分を殺したやつらがわかったら、こんなところで自縛してないで復讐に行く。
カリノが同じように考えるかはわからないけどね。
沙耶ちゃんが車から下りてきた。
「書いて残してあげてください。情報が多すぎ」
俺はトンネルの中に、スプレー缶が転がっているのを思い出した。

壁に大きく、犯罪者たちの名前を吹きつけてやる。
なんだか楽しかった。さっきまでのイライラとした気分が、嘘みたいに消えてたよ。

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 - 沙耶ちゃんシリーズ

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