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奇蹟の宴【オオカミ様・宮大工シリーズ11】

      2017/06/17

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宴が始まる少し前、俺は会場の最終チェックをする為に部屋を出た。

旅館の方に任せておけば良いとは思えど、仕事柄最終的な確認は自分の目でしないと気が済まないのだ。

自分の貧乏性に苦笑しながら会場に向かう途中、「○○さん……?」と背後から女性に呼び止められた。

振り向くと、上品な中年女性が立っている。

どこかで逢った事が有る。俺の記憶が囁くが、名前と素性は出て来ない。

俺が途惑っていると、女性が微笑しながら話し出した。

「何年振りでしょう……私もすっかりおばあさんになっちゃったから解りませんよね。
 ご無沙汰しております。詩織の母です」

瞬間、あどけない少女の笑顔が閃く。

白血病に冒されながら、精一杯生き、微笑みながら逝ったあの少女。

「これは!こちらこそ、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」

溢れるように戻ってくる記憶。懐かしさと哀しさに、ちく、と胸が少し痛んだ。

「○○さんは本当に変わられませんね。あの頃のまま……」

「いえ、自分もすっかり歳を取りました。もうすっかり中年ですよ。
 おかみさんから色々と伺っておりますが、今はお幸せなんですね」

「ええ、あの時の○○さんのお心遣いは忘れません。
 詩織が微笑みながら逝けたのもみな貴方と、 ……そしてオオカミ様のお陰ですから……」

しばらく、二人は黙った。俺は、そして恐らく女性も少女の事を想い出していた筈だ。

少しの後、女性が口を開いた。

「あ、なにかご用事だったんでしょう。呼び止めてしまって申し訳有りません」

「とんでもない。また、後ほど旦那様もご一緒にゆっくりお話させて下さい」

俺は一礼して踵を返し、宴会場へと向かった。

宴会場はきっちりと設えられており、いつでも宴が始められる状態だ。

親方夫妻は既に玄関で弟子達数人とお客様を出迎えている。

俺が女将さんと少々打ち合わせをしていると、例のお稲荷様の神主さんご家族が現れた。
「やあ、○○さん!この度はお招きいただいて……」

神主さんが上機嫌で喋りだした。どうも、既に少々飲っているようだ。

「ご無沙汰してます。お元気そうですね」俺の横に優子さん(娘さん)が来た。

「ウチの宿六がご迷惑をお掛けしてませんか?」「まあ、少しは」

顔を合わせてぷっと噴出す。今では、すっかり兄妹の様になる事が出来た。

「なにか手伝う事、有りませんか?」

「じゃあ、玄関でご亭主と一緒に受付をお願いします」

料理、飲み物、座布団……しっかり設えられているが、結局もう一度確認する。

確かに手抜かり無い、と納得して時計を見るともう三時直前だ。

そろそろ、宴席が埋まりだしている。俺は親方を呼ぶ為に宴会場を後にした。

俺はまだ到着していないお客様を迎える為、親方夫妻と交代して玄関に立つ。

本来なら親方が立つのが道理だが、宴が始まるので一番弟子の俺が代理としてお迎えするのだ。

玄関脇に立ち、まだ到着してない方を名簿でチェックしていると
弟子の一人が呼びに来た。

だが、まだ数人来られて無い方が居るから、と弟子を帰す。

女将さんが用意してくれた茶を啜っていると、今度は優子さんが現れた。

「始まったばかりなのに抜けてきちゃダメですよ」

「いえ、ウチの人からの伝言です。オオカミ様が宴会に来てるって……
 私のところに飛んできて、俺は手が離せないからとにかく兄さんに伝言してくれって」
「……そう、ですか」

俺は玄関を出て、空を見上げた。いつの間にか、雪が降りて来始めていた。

つづく……

 

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 - オオカミ様・宮大工シリーズ

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