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奇跡待つ日【オオカミ様・宮大工シリーズ10】

      2018/09/27

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「オオカミ……さま……?」

俺が呟いた瞬間、彼女はビクッと身体を震わせた。

一瞬の後、彼女の瞳からつ、と涙が溢れた。

「○○……さま……?」

彼女の口から俺の名が紡ぎ出される。

記憶の中の、あの澄んだ鈴の音のような声で。

舞い散る雪の中、どれほどの時間が経ったろう。

彼女が困惑したように口を開いた。

「あれ……?私、なんで泣いてるの……?あれ……?○○様って……あれ……?」

俺も混乱していた。

目の前に立つ少女は、紛れも無くオオカミ様だ。

顔立ち、黒髪、声音、そして銀の髪飾り。

なによりも、俺の名前を呼んだではないか。

「貴女は……」俺が口を開き掛けた時、突然階段の方から声が掛かった。

「沙織、どうしたんだ?大丈夫か?」
どうやら、停まっていた車から男性が出てきたようだ。

「あ。お父さん!大丈夫。今行きます!」
彼女は涙を拭くと、俺の横を会釈しながら小走りに駆け去って行った。

車のドアが閉まる音が聞こえ、エンジン音が遠ざかっていく。

俺は呆然と立ち尽くす他無かった。

突然聞こえてきた笛の音で我に返る。

お社を振り返ると、見事な月明かりの中お社の屋根に誰かが座って笛を吹いている。

月明かりが逆光になりシルエットしか見えないが、直感的にあの少年だと感じた。

美しく響く笛の音をしばらく聴いていると、ふと演奏が止まった。

「時、来たれり」
朗々とした声が響く。もう一度見上げると、既にその影は消えていた。

俺はお社に酒を納め、願いを掛けた。

そして、踵を返すと鳥居を潜り、階段を降り始めた。

結局そのまま眠れずに居たので、少し早いが午前六時頃に親方の家へ向かう。

集合時間は七時なので、誰か弟子が来ている筈だ。

案の定、俺が付く頃には弟子達が半分は集まっていた。

親方とおかみさんに新年の挨拶をし、鏡割りした樽から酒を酌む。

庭で焚いた火に当たりながら酒をチビチビやっているとおかみさんが声を掛けてきた。

「○○、なんだか心此処にあらずって感じだね。なんか有ったのかい?」

「いえ、なんでもないです。もう少しでバスが迎えに来るから支度しないとですね」
言ってる傍から迎えのバスが到着した。

自分の車から荷物を下ろし、親方の荷物や祝いの品等をトランクに乗せてから乗車。

ものの十分でバスは会場の温泉旅館へと到着した。

荷物を下ろし、宴会場の状態を確認する。

親方とおかみさんには、先に部屋に行って寛いでもらった。

ほとんどの支度は旅館側でやってくれているし、今日の宴会は午後三時からなのでとりあえず温泉に浸かって汗を流した。

こんな大規模な宴は中々無いので弟弟子達もはしゃいでいる。

しかし俺はオオカミ様の事が気に掛かってはしゃぐ気にはなれなかった。

温泉から出て、与えられた部屋に入る。

弟子達は十畳ほどの部屋四つに分かれて宿泊だが、俺は一応個室を頂いた。

とんでもないと辞したのだがおかみさんが「あんたは特別だよ」と取ってくれたのだ。

茶を入れ、饅頭を食べながらこれからの段取りを思案しているとノックする者が居る。

「どうぞ」と答えると、弟弟子の一人が入ってきた。

彼はかつてお稲荷様の一件で取り憑かれて昏倒した男だ。

今では腕を上げ、俺の片腕となっている。

また、数奇な縁で例のお稲荷様の神主さん宅へ入り婿した。

「兄さん、ちょっといいですか?」

「ああ、どうした?まだ昼飯にゃ早いだろ?」

「いえ、それが……」

先ほど、温泉から出て旅館の中を歩いていると見覚えの有る女性とすれ違ったという。

その後ずっと誰だったか考えていたのだが、ようやく思い出したと。

「俺がお狐様に取り憑かれた時、意識が戻る前に見た夢でお狐様を踏んづけてた巫女さんそっくりなんです」

「ってことは……」

「そう、オオカミ様です。あの方にそっくりな女性とすれ違ったんです!」

「時、来たれり」
少年の声が俺の脳裏に蘇る。

「これは……」
その時が、奇跡の時が来たのか?
どうすればいい?探しに行くか?
……いや、焦るまい。

もう、これは運命なのだ、と感じた。

つづく……

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 - オオカミ様・宮大工シリーズ

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