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オオカミ様の涙【オオカミ様・宮大工シリーズ05】

      2017/06/17

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ある年の秋。季節外れの台風により大きな被害が出た。

古くなった寺社は損害も多く、俺たちはてんてこ舞いで仕事に追われた。

その日も、疲れ果てた俺は家に入ると風呂にも入らずに布団に倒れこんで寝てしまった。
「○○様、○○様……」

どこかからか懐かしい声が聞こえる。

この、鈴の鳴るような声は……俺はのそのそと起き上がると廻りを見廻した。

すると、枕元に懐かしい姿があった。

「オオカミ様……」

夢か現か、幾年振りかに見る姿。

「○○様、お久しゅうございます。」

彼女は泣き笑いの様な不思議な表情で俺を見つめている。

良く見ると、白い顔と着物は泥にまみれ、長い黒髪もバサバサである。

そして、俺の納めた銀の髪飾りも見当たらない。

「申し訳ございません。○○様に頂いた髪飾りを失くしてしまいました……」

彼女の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。

俺は取り乱し、どうして良いか解らなくなってしまった。

「そんな、泣かんで下さい。また新しい髪飾りを、貴女にもっとお似合いの髪飾りを見つけてきますから……」

彼女はポロポロと涙を零しながら「お許しください……」と言い、ふっとかき消す様に居なくなってしまった。

「オオカミ様!待って、待って下さい……」

はっと目覚めると、窓の外は白みつつあった。

出勤し事務所に入ると、直ぐに親方に呼ばれた。

「おう○○!実はな……」

「オオカミ様の社に何か有ったんですね!」

親方の声を遮るように俺が叫ぶ。

「お、おお。良く解ったな。先日の台風で、オオカミ様の社が地滑ったらしい。
さっき神主さんから連絡が有った。社は下の林道辺りまで落ちて土砂に埋まっているそうだ。」

「親方!俺は今日からオオカミ様の社に行かせて下さい!」

「バカヤロウ!地滑ったばっかで社の修復なんぞまだまだ先だ!
それに、お前が掛かってる現場はどうすんだ!」

親方に怒鳴られたが、俺は喰い下がった。

「お願いします!なんなら今日は休みでも良いんです。様子を見るだけでも!」

親方は凄い形相で俺を睨んでくる。しかし、昨夜のことも有り、
俺は負けずに睨み返した。何分ほど睨みあっていただろうか、
突然おかみさんが口を挟んできた。

「おまえさん、行かせておやりよ。○○、昨夜夢枕にオオカミ様が立ったのかい?」

「・・・はい、おかみさん。」

「で、社を早く直して欲しいとでも言われたのかい?」

「いえ、泥だらけの姿で出て来ましたが、社の事は何も……」

「じゃあなんで出てきたんだい?」

「俺が納めた髪飾りを失くしちまったと。泣きながら謝るんですよ……」

「ふう……」

親方が溜息をつく。

「やれやれ、相思相愛かよ。しかし神様相手じゃキスも出来んだろうによ。まあ良いや。
行っていいぞ○○。ただ、無理すんじゃねえぞ」

「はい!ありがとうございます!」

俺は軽トラにスコップや鋤簾を積むと、急いで社へと向かった。

途中の林道は予想以上に荒れており、四駆にしなければ越えられないほどの場所が何箇所も有った。

何時もの倍以上の時間を掛け、なんとか社の付近まで近付いたが、其処には目を覆うような惨状が広がっていた。

社へと上る長い階段は跡形も無く、社の建っていた広場は殆どが削られてしまっている。

鳥居は見当たらず、恐らく土砂に埋もれている。

そして、社は土砂に半ば埋もれかかった無残な姿を晒していた。

俺は四苦八苦しながら社へと近付き、状態を確認した。

とりあえず社の周りを探し回るが、髪飾りなどは見付からない。

四時間ほども探し回ったが見つけられず、途方に暮れながら軽トラに戻ろうとした時、
目の端で何か光るものを見た。

急いで当たりを付け、駆け寄って見る。
そしてその周辺をスコップで掘り返してみると、数回の後に土砂の中から鈍く光る髪飾りを掘り出す事が出来た。
とりあえずお社に向かって一礼し、先ほど掘り出した狛狼様二体を軽トラの荷台に固定し、
このお社を管理している麓の神社へと向かい、神主さんに事情を話して引き渡してきた。

ただ、髪飾りは俺が持ち、お社の修復後に改めて納める事となった。

事務所に帰ってから、急いで現場に向かう。

仕事を終えて戻ると、親方は他の現場から既に戻っていた。

「おう、○○。髪飾りは見付かったか?」

俺は一通り報告し、地滑りの修復が終わった後のオオカミ様のお社は俺に任せてくれるようにお願いした。

「ああ、言われんでも解ってる。どっちにしろ来年の話だぁな」

「そうですね。役所がとっとと動いてくれるといいんですが……」

俺はそう答えながら髪飾りを握り締めた。

(了)

 

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