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藤原清衡の呪い

      2017/07/28

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作家、民俗学者として知られる山田野理夫氏の話。

宮城の民話 [ 山田野理夫 ]

或る春の朝、氏が起きると突然右膝が痛み出し、立つことも出来なくなった。

知り合いの鍼灸師を呼んで治療してもらったが、原因不明の痛みは治まらない。

その前後、山田氏は不思議な夢を見るようになったという。

夢の中で山田氏は荒涼とした池の畔に佇んでおり、その池畔には一基の古碑がある。

そこで場面が転換し、いつの間にか氏は杉の大木に囲まれた坂道を登っているのだという。

そのうち杉木立は途切れ、右崖下に川が流れる物見台で膝をさすっていると、そこからは寺の本坊らしき建物が見える。

そこでいつも僧に会うのだが、ここはどこだと問うても、いつも口を閉ざして答えてくれないのだという。

そのまま奥へ進むと、やがて右手奥に微かな光が見えてくる。

ゆったりとカーブした丘の上の建物が、眩い黄金色の輝きを放っているのが見え、そこで夢は終わってしまうのだそうである。

同じ夢を見るうち、山田氏は「あの夢に出てくる寺は平泉中尊寺ではないか」と気がついた。

奥に見えるのは国宝である中尊寺金色堂、最初に見た池は毛越寺の庭園であり、そしてその池畔に見えたのは、かの有名な松尾芭蕉の「夏草や……」の句碑であろうという。

そうして、山田氏はやっと、右膝の痛みが藤原清衡の呪いではないか、と思い当たったという。

なんと山田氏は、奇妙なめぐり合わせから、金色堂の中に眠る藤原清衡のミイラの一部を持っていたのである。

その昔、昭和25年の朝日新聞文化事業団による本格的な調査以前に、ある学者たちが清衡の棺を暴き、清衡の遺体を直に見て、触って、調査したことがあったのだという。

金色堂内には奥州藤原氏四代、清衡、基衡、秀衡のミイラと、四代・泰衡の首級が納められているが、このミイラには大きな謎があった。

このミイラは自然発生的にミイラ化したのか否か、という謎であった。

この謎を解き明かさんと、清衡の棺を暴いた学者の名前を仮にABCとする。

調査中、この学者たちが清衡の遺体の右膝に触れた際、わずかに遺体の一部が欠落したのだという。

骨と皮膚の間の筋肉部と思われる、茶褐色の毛片のような欠片であった。

その欠片を、調査目的で学者たちが持ち帰ったというわけだ。

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しかし、すぐに三人に異変が現れた。

Aは電車事故、Bは階段から落下、Cは関節炎で、各々の右膝に何らかの事故が発生したのだという。

そんなことがあったため、ABCの夫人たちが、民俗学者であった山田氏に相談を持ちかけ、「これは清衡の呪いだと思うが、どうしたらいいかわからない」と遺体の欠片を譲渡したのである。

そんなわけで、山田氏は藤原清衡の遺体を手に入れたのであった。

山田氏はこの遺体を元の場所に返さなければならないと思い立ち、人づてに連絡を取り、後に中尊寺貫主になる僧侶・今東光氏と連絡を取り、事の次第と、ミイラの一部の始末をどうすべきか伝えた。

すべて伝え終わると、今東光氏は驚きの声を上げたという。

「金色堂の棺を開けるのは日本銀行の金庫を開けさせるよりも遥かに難しい。清衡公を元の場所にお返ししたいのは山々だが、棺は今後もう二度と開かれることはないだろう」

そういうわけで結局、遺体を元の場所に戻すことは叶わなかったのである。

後日、山田氏がこの体験記を『文芸春秋』に投稿すると、予想外に多くの反応があったという。

ある新聞社が遺体の一部を撮影させてくれと言ってきたり、とある霊媒師がその夢を私も見たと主張してきたりして収集がつかなくなり、非常に持て余したそうだ。

その後、その清衡公の遺体の一部は山田氏の手によって、中尊寺境内のどこかに埋葬されたということである。

山田氏は遺体を埋めた場所をひそかに「清衡塚」と呼んでいるというが、彼以外にその場所を知る者はいない。

(了)

 

恐怖箱しおづけ手帖 [ 松村進吉 ]

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