【厳選】 怪談・都市伝説・怖い話まとめ

ネットで見つけた、都市伝説・怪談・ほんとにあった怖い話・世にも奇妙な物語・心霊系・不思議系・電波系・オカルト系のお話シリーズです♪

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北向きの墓

      2015/08/15

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私が中学一年生だった頃の話だ。

十月上旬。その日は土曜日だった。

昼食を食べた後、私は自転車の荷台に竹箒をくくりつけ、友人の家へと向かっていた。

自宅のある北地区から、町を東西に流れる地蔵川を越えて南地区へ。
思わず、快晴!と叫びたくなるほど真っ青な空の下、箒をくくりつけた自転車は、何だか空すら飛びそうな気がした。

もちろん、気がしただけだったが。
友人の家は、南側の住宅地を抜けた先の山の中腹辺りに、街を見下ろす形で建っている。
家の周りをぐるりと囲む塀の脇に自転車を停め、箒を持って門の傍に行くと、
松葉杖をついた友人が門の外で待ってくれていた。

彼はくらげ。もちろんあだ名だ。

彼の左足には白いギプスが巻かれていた。確か何本か肋骨にもヒビが入っていたはずだ。

先月九月後半、台風がやってきた際の事故による怪我だった。

「別に家の中で待ってりゃいいのに」

私が言うと、くらげは自分で脇腹の折れた肋骨の辺りを軽くさすった。

「……そういうわけにもいかないよ。君は、お墓のある場所知らないでしょ」

今日私がここに来た理由は、彼の先祖の墓を掃除するためだ。

先月の、丁度秋彼岸の時期にやってきた台風により、墓の周辺が荒れてしまったのと、いつも掃除をしているくらげの祖母の体調が芳しくないため、急遽ピンチヒッターとして私が自ら名乗り出たのだった。

「そういえば、おばあちゃんまだ体調悪いのか?」

「そうだね……。自分では、『大分良くなってきた』って言っているけど、あまり良くないみたい」

くらげはそう言って、家の方を振り返った。

ちなみに、くらげは三人兄弟の末っ子で、長男は県外の大学に行っており、
現在家には、くらげと祖母、大学教授の父親、高校生である次男の四人が住んでいる。

ただ、父親と次男には先祖の墓掃除をする気は無いようだ。理由を聞いたが、くらげは教えてくれなかった。

本来なら家の者が掃除するべきなのだろうが、くらげと祖母は動けないし、あとの二人はそんな感じなので仕方がない。

他人の家の墓を掃除することが失礼に当たることは知っていたが、家の者に許可を貰っているから大丈夫だろう。

そもそも、くらげが怪我をした事故には私も少なからず関わっているので、責任を感じている部分もあった。

「そっか……。じゃ後で、『お大事に』って伝えといて」

「うん。分かった」

それから二人で墓のある家の裏手へと向かった。

裏手には山の斜面に沿った細い道があり、この道を上っていくと墓があるそうだ。

道も分かったので、くらげはここで待ってた方が良いと言ったのだが、彼は自分も行くと譲らなかった。

「君は僕の家の人間じゃないんだから、勘違いされたら、困るでしょ?」

『誰が何を勘違いするんだ』と言いかけて、私はその言葉を飲み込んだ。

言い忘れていたが、彼は『自称、見えるヒト』である。
ちなみに、くらげの祖母も見える人で、その力は彼の比ではないとか。他の兄弟と父親は見えないらしい。

くらげが転びやしないかと内心ひやひやしながら、緑に囲まれた細い道をしばらく登ると、
墓が三段に並んでいる開けた場所に出た。

墓は確かにひどい有様だった。

折れた木の枝や葉がそこら中に散乱し、
花入れは何本か地面から引っこ抜かれていて、その内のいくつかが地面に無造作に転がっている。
その有様を眺めながら、私はふと、違和感を覚えた。何かがおかしいような気がしたのだ。

けれども、これ程荒れているのだから、多少の違和感はあって当然なのかもしれない。
掃除して綺麗になれば、違和感も消えてなくなるだろう。と、その時は思った。

とりあえず、家から持ってきた箒で、目に付くゴミを片っ端から片付ける。
くらげも近くの雑草などを抜いて、出来る限り手伝おうとしてくれていた。

掃除をしている最中、ふと、一番新しそうな墓が目に留まった。

よくよく見てみると、側面に書かれている命日は、私の生まれた年だ。

墓石に刻まれた名前は女性のものだった。だとすれば、これはくらげの母親の墓なのだろう。
彼の母は、彼を生んですぐに亡くなったと聞いたことがあった。

生まれてすぐに母親を亡くす。それが一体どういうことなのか、幸せな私には想像もつかない。
祖母が母親の代わりだったのだろうか。
余計な想像を、私は頭を振って振り落とした。

一時間ほど駆けずり回っただろうか。
もし私の母親が見ていたら、『自分の部屋の掃除もこれくらい真剣にしてくれればねぇ……』などと愚痴ってそうだ。

頑張った甲斐もあり、墓の周辺は随分綺麗になっていた。

その間、くらげは一度家に戻っており、ペットボトルのジュースやら水やら饅頭やらを家から持ってきていた。

「おつかれ様」

「おー、サンキュ」

一番上の段の草むらの上に腰を下ろし、くらげからジュースを一本と饅頭をひとつ貰う。
周りの木々が微かな風になびいてさわさわと音を立てた。

私の周りを、濃い緑の匂いと共に、何やらよく分からない小さな虫が飛び回っている。
ジュースを飲み、栗饅頭をかじりながら、私は今しがた自分が掃除した墓を見下ろした。
先程感じた違和感は消えてはいなかった。どころかそれは、墓が綺麗になったことで逆に強まっていた。

何ともいえない、『何かが違う』という感覚。
いくら考えてもその正体は見えず、私は隣に座るくらげに尋ねてみた。

「なあ、くらげさ。……気ぃ悪くしたらごめんだけど」

「何?」

「ここのお墓ってさ、なんか変じゃないか。上手くはいえないけど、どこかおかしいっていうか……」

「ああ、うん」

私は彼を見やる。その表情は何ら変わらず、いつもの彼のものだった。

「全部、おばあちゃんに聞いた話だけど……」とくらげは言った。

「この辺りにはね。昔から、人は死ぬと、その魂は海に還るって言い伝えがあるんだ」

街から現在私たちがいる山を一つ越えれば、その先には太平洋が広がっている。
街の人間にとって、海は昔から身近な存在だった。

「だから魂がちゃんと海に還れるように、この辺りのお墓はみんな、南を向いてる」

そこで私はようやく、違和感の正体にも気がついた。

確かにそうだった。私が今まで見てきた墓は、全部名が彫られた面を南向きにして建てられていた。

しかし、ここの墓は名前のある面が北に向いている。還るべき筈の海に背を向けているのだ。

おそらく無意識のうちに、『墓は南を向いている』という固定観念が私の中に出来ていたのだろう。

だから、初めて北を向いている墓を見て違和感を感じた。

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「……村八分って言葉があるでしょ?」

くらげは淡々と話を続ける。

「あれって、死んだ後のことと、火事とか水害とか災害の時は助け合う、っていうのが二分で、あとの八分は一切のけ者にする。
それが、村八分の意味らしいんだけど。……僕らの家は、八分じゃなくて、村九分にされてたんだ。

……だから、お墓も逆向きに建てさせられた。死んだ後も、同じ場所にはいけないように」

私は何も言えなかった。彼はペットボトルのジュースをゆっくり口に含むと、ふう、と一息ついた。

彼の家が疎外されていた理由。それは、彼や彼の祖母が『見えるヒト』であることと、何か関係があるのだろうか。

「……でも、そんなことがあったのはずっと昔のことだから。今は、ご先祖様が皆あっち向いてるから、合わせなきゃいけない、っていう理由らしいけど」

そこまで言うと、くらげは饅頭と一緒に持ってきた袋と松葉杖を持って立ち上がった。

そして、一番端にある墓の前にしゃがみこむ。
袋に入っていたのは水と米だった。墓の上から水を掛け、米を供え手を合わせ、瞑想する。

それが終われば、隣の墓に移る。上の段から順々に。
しばらくその様子をぼんやり眺めていたが、はっとした私は、慌てて彼の後についてお参りをする。

そうして、一段目、二段目と供養を続け、一番下の段まで来た。

「これは、ひいおじいちゃん」

水を掛けながら、くらげが呟いた。

「……これは、ひいおばあちゃん」

次々と、その名前を呼びながら手を合わせてゆく。

「これが、おじいちゃん……」

くらげの祖父の墓。今まで一番長く手を合わせていた。

私はくらげの祖父に会ったことが無い。
けれども以前、彼の家で夕食をご馳走になったときのことだ。

死んだはずの祖父の席には料理と酒が置かれ、祖母は誰もいない空間に向かって嬉しそうに話しかけていた。

もちろん、私には祖父の姿は見えず、まるでパントマイムを見ているかのようだった。

くらげにも祖父の姿は見えないらしい。

「……なあ、くらげのおじいちゃんって、どんな人だったんだ」

祈り終え、顔を上げたくらげに私は尋ねる。

「怖い人だった」

くらげはそう答えた。

「医者だったからかな。幽霊なんて、全然信じてなかった……。だから、僕とかおばあちゃんがそういう話をするのが、すごく嫌だったみたい。……殴られたこともあるよ。『正しい人になれ』って」

私はまた、あの夕食の席を思い出していた。

私にとってはただ一度きりだが、あの家では毎回、毎食、同じ光景が繰り返されているのだ。

もし、くらげの祖父が、生前自分が否定したモノになっていたとしたら、彼は今どんな気持ちでいるのだろう。

くらげが最後の墓に向かう。それは彼の母親の墓だった。

残り全ての水を注ぎ、米を供える。松葉杖を脇で支え、二拍手の後、くらげは目を閉じた。

私は想像してみる。
くらげの母のこと。一体どんな人物だったのだろうか。
しばらくして目を開けたくらげが、ちらりと私の方を見やった。そして何か感じ取ったのか、ゆっくりと首を横に振った。

「分からないよ。……何も、覚えていないから」

私はどうやら無言の質問をしていたらしい。対する彼の答えがそれだった。

私はその名前が刻まれた墓石を見やる。
母と過ごした記憶の無い彼に、目の前の石の塊はどう映っているのだろう。

「戻ろう」とくらげが言った。私は黙って頷いた。

墓を出ようとした時、一陣の強い風が吹いて、周りの木々をざわめかせた。

それはあまりに突然で、墓を掃除した私に対するお礼だったのか、それとも、よそ者が余計なことをするなという怒りの声だったのか、もしくはその両方か。

北向きの墓。

海に帰ることの出来なかった魂は、一体何処へ向かうのだろう。
そんなことをふと思う。

「今日は、ごめんね。休みなのに」

山を下りている最中、くらげがぽつりと呟いた。

実際、彼は人に仕事をさせて自分が楽しようというタイプではないので、今日私が作業している横で心苦しかったのかもしれない。

けれどもそれは、後からこうだったのかもしれないと考えたことだ。

その時の私は、彼の気持ちなどまるで思い至らなかった。

「ああ、それは別にいいんだけど……」

一つ、先ほどからずっと気になっていたこと。

「まさか……、勘違いされてないよな」

せっかく苦労して掃除したのに、当の墓の下で眠る方たちに、墓を荒らしに来たよそ者と思われたままでは、頑張った甲斐がない。

私の言葉に彼は何度か目を瞬かせた後、不意に私から目を逸らし、何故か突然「くっ」と短く笑った。

笑ったことで肋骨に響いたらしく、身体を丸め、脇腹の辺りを押さえている。

「おい、何が可笑しいんだよ」

私が口を尖らすと、くらげはちらりとこちらを見やり、「……されたかもしれないね。勘違い」そう言って、また小さく笑い、「いたた……」と脇腹をさすっていた。

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