【厳選】 怪談・都市伝説・怖い話まとめ

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【沙耶ちゃんシリーズ】12 除霊

      2015/07/05

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翌週は何事もなく過ぎた。
俺としては、H先輩あたりの首をもぎ取ってやろうかと思ってたんだがww悪夢の欠片も見なかった。

仕事の合間に白骨遺体のことを話すと、先輩は「気持ちわりーな。寺行って来い、寺!」と、
その筋で有名な大阪の寺まで調べてきた。

江戸時代から慰霊で名を馳せている、由緒のあるところだそうだ。
日曜日には休みをくれるというので、遊興も兼ねて行ってみることにする。

沙耶ちゃんに「一緒に行かない?」と電話をすると、
『……お寺ですか……あんまり勧めませんけど……」と、歯切れの悪い答えが返ってきた。

理由を聞く。
『除霊って好きじゃないんです。一方的に霊を追い出してしまうことなので。
できれば、話し合って浄化してもらいたいんですけど……』
なるほど。沙耶ちゃんらしい考え方だよ。

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正直俺は、儀式でこの厄介な現象がなくなってくれるとは思わない。
ただ、祓ったから霊に勝てると、自信をつけたいだけなんだ。
そう説明すると、沙耶ちゃんはやっぱり乗り気ではないようだったが、
『まことさん1人で行かせるのも心配なので』と承知してくれた。

鉄道を使うつもりだったので、ローカルな駅に車を置いて、新幹線の乗車駅行きの急行に乗った。
ふだん乗りつけないから、切符の買い方がわからなくなってたよorz
沙耶ちゃんも珍しい車窓の景色に目を輝かせていた。「子どもの頃以来かも」だって。
今だって子どもみたいなもんだw

市を2つまたぎ、そろそろ都市圏に入ろうというところで、列車は小さな踏切を渡った。
遮断機の向こうで待つ通行人と車の列。見知った顔があった。
「あれ、見覚えない?」と沙耶ちゃんに振ると、彼女は首をかしげた。
あ、そっか。沙耶ちゃんは1度しか会ったことがなかったな。
3年前の春から夏にかけて、毎晩コンビニに来ていたキャバクラ嬢ふうの客だ。
今の格好は普通の主婦っぽかったが、激しく脱色した髪が名残をとどめている。
そっか。見なくなったと思ったら、こっちに移って来たんだな。

踏み切りが後ろに流れて見えなくなったタイミングで、前方に小さな駅が見えてきた。
この列車は停まらないはずだ。
駅に停車していた鈍行電車が動き始め、俺たちの横を対向して過ぎて行く。
いかにも地元という感じの利用者で賑わっていた。
平和な風景としか言いようがない。大阪まで何しに行くんだか忘れそうになったよ。
でも俺たちの列車は、予定のない駅に緊急停車してしまった。

駅のけたたましいブザー音が、密閉された車内にまで飛び込んだ。
ドアが開かないので、乗客の数人が不安げに立ち上がって様子を窺っている。
駅員がホームを右往左往しているのが見えた。怒鳴っている声までは聞こえない。

5分ほどしてから、この列車の車掌と思われる制服組が車両を回ってきた。
「ただいま踏切内で、人身事故が発生しました。ダイヤ調整のため、しばらく臨時停車いたします」
近くにいた50代ぐらいのおっさんが車掌に噛みつく。
「なんで通り過ぎた踏切の事故で、この電車まで動かなくなるんだ?!」
その横の妻らしい厚化粧のばあさんも、したり顔で付け足す。
「事故なら前もあったけど、関係ない電車まで止めることはなかったわよ!早く出してよ!」
車掌は動じた様子もなく、「しばらくお待ちください」と言い残して、他の車両に移っていった。
俺のせいなんだろうか?根拠のない罪悪感が頭をもたげる。
俺のせいで、列車が止められたんだろうか?
俺のせいで、列車を止めるための事故が起きたんだろうか?

再出発が難しいというので、俺たちはバスに乗り換えることになった。
俺は……行かなかったよ。バスまで止まると気の毒だからね。
駅のロータリー沿いに表通りに出ると、踏切の方向に向かった。
沙耶ちゃんが小走りでついてきて、俺の腕を取る。
「どこに行くんですか?」
どこって……どこに行こうとしてんだよ、俺?
「確かめないとね」とだけ言った。誰が轢かれたのか。死んだのか。助かったのか。

踏み切りのそばでは警察がバリケードを張っていた。
現場はかなり遠いな。轢いたと思われる鈍行電車の側面だけしか見えない。
野次馬の中から肌着姿の爺さんをつかまえて聞いてみた。
「どういう人が事故に遭ったんですか?」
爺さんはひどく同情した面持ちで答えた。
「妊婦さんが電車に飛び込んだらしいよ。まだ若いのにねえ」
沙耶ちゃんが小さく悲鳴を上げたので、爺さんから視線を移すと、
2人の鑑識が、ビニールシートを警察車両に乗せているところだった。
「茶色の髪が見えた……」
沙耶ちゃんの呟く声が震えていた。

駅のベンチに腰かけながら、なぜか俺が沙耶ちゃんを落ち着かせる羽目になった。
「ああいう死に方した人、初めて見たから、ちょっと動揺しちゃって……ごめんなさい」
って言うけど、もっと壮絶なのに何回も会ってるじゃないか……w
「同じ死人でも、やっぱり霊と死体とは違うの?」と質問すると、
「私は不成仏な霊にはならないけど、死体にはなるから……自分がああいう姿になるのが怖い」と答えてきた。
そうだね。そのとおりだ。肉体に傷がついて再生不可能になるってのは、こんなにも怖いことなんだ。
でも、その最悪な終末をキャバ嬢に取らせたのは、俺じゃないのか?
「俺がここを通らなければ、あいつ、死ななかったのかな……」
思わず口についた言葉。
「俺、すごく迷惑なヤツだ……」
「まことさんがどう関係するの?」
沙耶ちゃんは本気で不思議そうに言う。
「だからさ、除霊なんかに行こうとするから、こういう形で足止めされたってことだよ」
確信的に説明すると、沙耶ちゃんは珍しく理解力を示さなかった。
「全然つながりがわかりません」
慰めてんのかな?……慰めてるんだよな?……
ここでわかってもらわないと、俺、泣きつくこともできないんだけど……orz

「あのね、よく考えて」
沙耶ちゃんが一言一言に力を込める。
「もしまことさんをお寺に行かせたくないだけなら、車を動かないようにすればいいじゃないですか。
霊って、電気系統を壊すのは得意なんですよ」
へえ。そうなんだ……
オカルトで照明がいきなり切れたり、電源の抜けているラジオがついたりっていう、話を思い出した。
「なのに、わざわざまことさんの知ってる人を、家から連れ出して自殺させるなんて、
そんなエネルギーの要ることすると思います?」
俺は首を横に振るしかない。
「だから、あの人が踏み切りに飛び込んだのは、あの人の意思です。まことさんには関係ありません。
気にしちゃダメです」

……そっか。俺はたまたま事故に巻き込まれただけなのか。
『お箸要らないです』と屈託のない笑顔で断ってたあの人が、妊娠中なんて幸せの絶頂期に自殺したのは、
あの人自身の運命であって、俺には何の関係もないのか。
「無理」
俺はまた首を振った。
「そんなふうには思えない」
沙耶ちゃんはとっても困った顔をした。
「弱気になると憑りつかれちゃいますよお」
いっそ。
「そのほうが楽かもしれない」
沙耶ちゃんはうな垂れた。
「私はイヤです……」
憑りつかれるっていうのは、どういうことなのかわからないが、
きっと、俺が俺でなくなるってことなんだろうなと思う。
俺は沙耶ちゃんの柔らかい猫っ毛を撫で回した。こういう愛情もわからなくなっちまうのかな。
もしこの後、何も起きずに事故処理がなされ、無事に自宅まで帰りつけたら、
俺は沙耶ちゃんの『偶発説』を信じられたかもしれない。
でも残念ながら、俺のほうが正しかったみたいだ。
踏み切りのほうから、泥色の小学生が歩いてくるのがはっきりと見える。

坊主は何かを抱いていた。首か、足か、残りの腕か。
こんなガラクタ集めて、自分を再生して、成仏できると思ってる霊がいるのが笑えるね。
坊主は俺の膝の上に『それ』を置いた。
血まみれの生首のほうがまだマシだった。
胎児だったんだ。臍の緒が長く長く伸びていて、線路上をさまよっている母親とつながっていた。
俺さ。由香さんをあんな目に遭わせておいて言うのもなんだけど、子どもの死体はダメなんだよ。
沙耶ちゃんはすでに俺の視界にはいない。
見えるのは、血の海になった事故現場と、坊主と、不完全な形の胎児だけ。
「次は右腕と上半身と下半身以外だね」
俺がやつらの世界に近づいたぶんだけ、坊主の声がクリアに聞こえた。
「本物を提供するよ」
俺はためらいなく人間をバラせる環境が整ったことに、悦びを隠せなかった。

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