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自殺の名所【稲川淳二】

      2021/04/09

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昔から自殺の名所って呼ばれる場所ってありますよね。

華厳の滝だとか、富士の樹海だとか、錦ヶ浦だとか東尋坊だとかね……

これどこもみんな景色がいいんですよね。それで、人が結構来る場所なんですよね。

神秘的な美しい景色の中、そこには秘められた神秘的な魔力のようなものがあって、自殺者を呼び寄せるんじゃないだろうかって話しもありますがね……

例えば富士の樹海ですよね。青木ヶ原樹海。

ここは実際、時期がいいと非常に爽やかな場所なんですがねぇ。

松本清張さんの「波の塔」という小説で一気に有名になってしまって、なぜか自殺の名所になってしまいましたがね。

それで、これやっぱり面白いものですね。あるリズムのようなものがあるんですよね。

どういうリズムかというと、葉が出てね、辺りが綺麗な時期にみなさんお出でになりやすい。

地元の乗合バスでやってきてね、観光客の皆さんと歩きながら、ふっと脇道にそれて自殺をするんでしょうがねえ……

それで、この場所で我々もよく仕事をする事があるんですよ。その自殺の名所という所で。

名所なもんだから色んな噂があるわけだ。実際、色々とここでは起きたわけなんですがね。

一度なんかはそこで、自殺者はどういう状況で、どういう雰囲気で霊になるかっていうのを私やったんですよね。

それで撮影してたんだ。それぞれが、樹海の死体の役で幽霊で現れるというシーン。夜中ですよ。

それも寒い時期だったんですがね。カメラ向けてる、照明を当てているわけだ。

それで、「よーいスタート」でみんな呻き声をあげながら出てくるわけですよ。あちこちから男女が。

まあ、樹海はそれ位の人が亡くなってて当たり前の場所なんですがね。

そうやって撮影をしてたんですが、どうも納得がいかない。

というのもね、その呻き声のキーがどうも高いんですよね。

スタッフもわたしのところに来て、「稲川さん呻き声、もう少し低いの欲しいですねえ……」なんて話しをして。

じゃあ、みなさん本番いきますよって話しになった。

「よーいスタート」で、皆呻き声を出しながら、あちらこちらから出てくる。

その中にね、「ヴ……ヴヴヴ……」って低い声があるんですよ。

ん?いいじゃないか!って私思ったんですよね。いい声なんだ。低くて苦しそうな。

でも、そのうち、あれ?って思った。

みんなこっちにいるんだ。でも、その低い声はみんなと違う向こう側から聞こえてくるんだ。

そしたらね、カメラを持って動いてるカメラマンさんが、指差して、あっちあっち言ってるんだ。

音声さんも指を指しながら、あっちあっちってやってるんだ。

あっちなんですよ。その呻き声が聞こえるのは。

それでね、私、足音がしないようにそーっと抜けて、行ってみた。

してるんだ。声が。撮影しているところから、せいぜい50メートル程ですよ。

行ってみるとやっぱり呻き声はしてる。

周りを見ると落ち葉が積もっている場所があるんです。

私ね、ここだ!この中だ!っ思った。

そして、ゾーっとした。

辺りは真っ暗ですよ。

その時ね、何かが目に入った。小さいもんですよ?でも葉っぱじゃないんだ。

それで、なんだろう?って思って、私それ掴んだんですよ。そして引き出した。

そしたらね、それ柄でしたよ。短刀の。

刃は抜けてるんだけど、サビかと思ったら血がついてましたよ。

その声、首切って、「ヴヴヴヴぅ……」って言ってる声だったんでしょうね。きっと。

ゾクッとしたなあ……あるんですよね。そういう事って。

自殺の名所ってそういう事が当たり前のように起きている場所ですからね。

いつも大体秋になる頃にはね、遺体の収集ってのがあるんですがね……

この前たまたま行った時、すぐ近くにコンビニがあるんですが、そこのご主人が、「自殺者ってのはだいたい、初夏から夏、秋の初めの頃なのに、そうじゃない人もいる」って言うんですよ。

それはというと、雪の降る日なんですが、上九一色村のほうからやって来た男の人が、「ちょっと!ご主人!今さ、女の人が一人で樹海入って行くとこだから、あれ自殺だよ絶対!」って言うんですって。

放っておけないですからね、みんな集めた。

その時集まったのは四人だったそうですよ。

それでみんなで行ってみた。そしたら、足跡があったそうですよ。

これだねって言ってたら、途中でスクーターがあった。

ああ……と思って雪の降る中行ってみたら、枯れ枝の間から首を吊っている若い男が見えたそうですよ。

そしたらね、そのはじめに見た人が、「おかしいなあ……俺見たのは女だったぜ……」って言う。

それで周りも探したんですが、とうとう女は見つからなかったそうですよ。

そのご主人が言うには、「稲川さん、死体というのはさ見つけて欲しいんだろうねえ……でも男じゃ誰も来ないんだろうねえ……

俺たちも女だから行ったからねえ……」って言ってましたよ。

不思議な妙な話しがありますよね。それも自殺の名所なんですよねえ……

(了)

 

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 - 稲川淳二

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