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【稲川淳二】湘南ドライブ【ゆっくり朗読】126

      2021/05/19

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東京の大学生で、阿部君という人なんですがね。

同じクラスの加藤君に、ドライブ行こうよ!湘南行こうよ!としつこく誘われたんですね。

どうやらこの加藤くんが新車を買ったようだから、ドライブに行きたいようなんですよ。

はじめは断ったんですけど、あまりにしつこく誘われるもんですから、しょうがないかってドライブに付き合ったんです。

男二人、新車に乗って出かけて行ったんです。

やがて車は湘南の海沿いの道を走りはじめる。

その頃になると、なんだかわからないんですけど阿部君眠くなってきたんです。

ああ、眠いなあと思って。

しかし運転している加藤くんにも悪いし、眠るわけにもいかない。

弱ったなあ……眠いしなあと思って、ウツラウツラしながら景色を眺めていたんです。

運転している加藤君を何気なく見ると、自分の見ている視界の先に、チラっと何かが見えた気がしたんです。

何が映ったんだろう?と思うと、

「ん?うわっ」

自分が居る。

隣に加藤くんが運転している。

そのシートの間から痩せた女の手がぬーっと伸びてきている。

その白い手がぬーっと伸びてきて運転している加藤くんの肩をぐっと掴んだ。

「うわ、なんだこれ」と思った。

運転している人間が居るわけですから、下手に声を出すわけにはいかない。

危ないから。

うわーと思っていると、その白い伸びた手がスーッと引っ込んでいった。

なんだ今の!?なんだったんだろう。

怖いんですけど気になるもんですから、分からないようにすーっと後ろを盗み見た。

見ると運転している加藤くんの後部座席に若い女が座っていた。

居るはずがない女。

乗せた覚えはもちろんない。

こいつ、生きている人間じゃないぞ……

うわー、幽霊じゃねぇか、うわー……と思った。

怖いからじーっと前を見ている。

加藤くんに言うわけにもいなかので、じーっと前を見ている。

すると後ろから

一緒に行こう?
一緒に行こう?
一緒に行こう?
一緒に行こう?

女の声が聞こえてくる。

怖くて、勘弁してくれー……と震えていた。

すると海沿いの道を通り過ぎるとやがてその声も聞こえなくなった。

ドライブから帰ってきて阿部君が、別の友人である荻原君に

「おい、加藤には悪いけどな、俺あいつの車に絶対もう乗らねーぞ」と言った。

すると荻原君は、「なんで?」

「いやー、あいつには悪いけど、あの車まずいよ。あーまずい」

「どうまずいんだよ?」とオギワラくんが聞くので、例のドライブの時の話をした。

すると荻原くんが「あー、そうか。その女ってどんな女だった?」と聞いてきた。

それで阿部君が

「あー、げっそり痩せて、青白い顔をして、目は大きいんだけど、髪の毛は肩くらいだったかな?俺も怖いからはっきり見たわけじゃないんだけど」

というと荻原くんが

「あーそうか……それなぁ、あいつの彼女だよ。先月の初めに病気で亡くなってな、長いこと入院してて、退院したら二人で新車で湘南に行こうって約束していたんだよな。そうか……それであいつお前を誘ったんだな。俺だと事情知ってるからまずいしな」

「そういうことだったのか……。じゃあ俺二人の邪魔しちゃったわけだよな」

「そうらしいな」

と阿部君が

「でもさ、俺そんな事情知らないからさ、後ろからずっと一緒に行こう?一緒に行こう?と女の声が聞こえるから、生きた心地がしなかったぜ?」という話をした。

それからまたひと月ほど経って、今度は加藤くんが一人で湘南にドライブに行った。

そして海沿いの道で、スピードを出し過ぎたのか、ハンドルの操作を誤ってガードレールを突き破り帰らぬ人となってしまった。

一緒に行ったんでしょう。

どうやら加藤くんは二人で天国へのドライブに行ったんでしょう……

(了)

 

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