【稲川淳二】紫の座布団【ゆっくり朗読】899
2021/06/03
不思議な話、って、ありますよねえ。
その日は、私の友人と、その、友人の先輩という人と、三人で、久しぶりに、お会いしてた。
久しぶりにお会いしたんで、飲みにいったんだ。
したら、その席で、先輩の方が、「稲川さん、不思議なことって、ありますよね」
自分が友人に話したんだけれども、言った本人はもう、忘れていた話があるって言うんですよね。
「その友人に言われて、思い出したんだけど、今度お会いしたら、稲川さんに言おうと思ったていたんですよ」と、言う。
その話は、というのは……
その先輩が、小さいとき。よおーく歌ってもらった子守唄が、あるっていう。
で、自分はそれ、覚えていないもんですから、お母さんに、その話をした。
ところが、「そんな歌、知らないわよ」って、言われちゃった。
おかしいなぁ、おふくろのやつ……
母親がボケたのか、自分の勘違いなのか。
それは、知らないけれども、自分では、その歌、はっきりと、覚えている。
「じゃあ、いったいぜんたい、誰が、歌ってくれたんだろう」
自分はずっと、母親が歌ってくれたものだと、思っていたのになぁ……
と、彼。
「それでねえ、稲川さん、それだけじゃ、ないんです」と……
「というのは、私はねえ、子供のときにはたしか、家族が一人、多かったんですよ」って、言う。
彼が四歳か、五歳ぐらいまでのときに、彼の家には、大ばあちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、お兄ちゃん、自分、弟、妹の、八人家族だったそうです。
で、それが、なんとなく頭にあったんで、「小さいときにさあ、家におばあちゃん、もう一人、いたよね」お母さんに、聞いてみた。
したら、お母さんが、「いや、そんな人、いないよ」
昔っから、七人家族だよ……あんた、なに言っているの…と。
ええ!…おかしいなあ。
自分にとっても、そんなにはっきりしたもんじゃあないけれども……
小さいときに、家族が集まる部屋が、あった。
そこには、仏壇が、あった。
押入れが、あって、そこで、よくみんなで、ご飯を食べたって言う。
その押入れの前あたりで、いつも、小さなおばあちゃんが、紫色の座布団を敷いて、ちょこんと座っていたって、言う。
でも、いつのころから、いなくなった。
自分はそれを覚えているから、母親に言ったら、「いや、大おばあちゃんなんて、うちにはいないよ」って……
ま、そんなことがあって、しばらくして。
実家のお兄さんのほうから、連絡があったそうです。
「久しぶり。実はなあ、もう、親父も亡くなって、そろそろさあ、家を改築したいんだよな。で、昔っからのもんが、家にはずいぶんとあるから、まあ、後々の財産分けのこともあるし、おまえも一度、手伝いに来ないか」と……
「片付けながら、少しチェックしてくれ」と、言う。
「でねえ、稲川さん、最初はね、私も、早い話が片づけが大変だから、おまえも手伝いに来いってことで。そういうことだろうと」
そういうもんだと、思っていたらしいんです。
で、あれこれ、片付けながら、家族が昔からよく集まったその部屋。
ご飯を食べた、その部屋。
仏壇のある、その部屋。
そこへ行って、仏壇のならびにある、押入れの周りを片付けた。
と、あれこれ、いろんなものが出てきた。もちろん古いものも、たくさん出てくる。
中には、けっこう、値段のいいものもあったかもしれないけど、「稲川さん、刀とか、そういうもの、けっこうあったんです」って、そんな中から……
見たことのない、木箱が、出てきた。
紐が付いてた。
手に持ってみると、そこそこ重い。
「ああ、これは、壷かな」
そう思って、お兄さんに、「兄貴、なんか、これ、入っているけど」
ところが……
あまりにすすけていて、その木箱の上に書いてある文字が読めない。
でも、なんか、大変な、大切なものだろうと思った。木箱に入っていたから。
で、兄貴と二人で、紐を解いて、蓋を、開けた。
ん?中に、おおいを被った物が、入っている。
「なんだろう?」
お兄さんが、布を、ふっ、と、めくった瞬間に、!!…ええ!?
「稲川さん、本当にそのときは、驚いちゃいましたよ…」と、彼。
なんとそこには、…古い…頭蓋骨が、あったそうなんです。
うえぇぇぇ…と思った。
なんだ…!?
兄貴が、「なんだ、これ?…おい、これ…ひょっとして」と、言って、「もしかすると」兄貴、つばを飲み込んで、「これ、土葬時代の、うちの、先祖かも、しれないぞ…」
「でも、なんでこんなところに、あるんだろう…」
「だよな」
で、その頭蓋骨、しょうがないんで、お寺さんに、持っていった。
二人して菩提寺に。
「しばらく、預かってもらえませんか」
で、まあそれなりのことをしようと。
どういうもので、誰のかはわからないけれど。だけど、出てきたからには供養、しなくてはならないだろうと。
「ただ、稲川さん、不思議なんですけど、その頭蓋骨、下に…」と、彼。
「紫色の、座布団、敷いてたんですよねえ」
「今から思うと、ですけど。あの、歌を歌ってくれたの、あの、頭蓋骨だったかもしれないなあって」
「考えたら、それ、ずーーーっと家に、いたんですよねえ」って……
「だから、家にはもともと、もう一人、家族が、いたことになりますよね…」って……
だって、私、子守唄、知ってますから。
誰も、知らない、子守唄。
きっと、その子守唄、歌ってくれたのは、それ…だったんじゃあ、ないんでしょうか…と。
そんな話をねえ、してくれましたよねえ……
(了)
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