【稲川淳二】赤いおにぎり【ゆっくり朗読】204
2021/05/29
学生時代からの私の親友の話なんです。
だから、彼とは相当長い付き合いですよね……
その彼が私に話してくれた、話なんですがね。
彼、愛知の人間で、自分のおじいさんの、若い頃の体験だそうです。
彼のおじいさん、山歩きとか釣とかが好きで、今で言うアウトドア派ですよね。
仲間なんかも集めて、よく行っていたそうですよ。
で、その仲間なんかと、軽く山でも行こうかって話しになったんだな。
で、みんなで適当な装備を持って、出かけたわけだ。
山といったって、たいした山じゃないんですよ。
みんなでわいわい言いながら登った。
ところが、山というのは天気が変わりやすいですからね。ええ。
だんだん雲が早く流れるようになってきたんですよ。
状況が悪い。
「おい、このまま行くと雨になっちゃうんで、どこか一時的に避難した方がいいだろう」
と、言うか、言わないかのうちに、案の定、バタバタバタバタっ、と雨が降ってきた。
ザッーーーー!!!
黒い雲が、低くグッーと伸びてきた。
「おい、これは本当にいけないぞ、急ごうぜ」
「ああ、そうだな」
暗い山道をどんどん、どんどん、駆けるようにして登っていった。
やがて行くと、向こうに小さな小屋が見えた。
山で働く人の小屋なのか、それとも山小屋として使われている小屋なのか、わかりませんが、本当にちぃーちゃな、壊れかけた小屋があった。
「おおー良かった!あそこへ入ろうや!」
「おおー助かったぞ!」
みんなで中に入った。
入ってみると、もちろん真っ暗ですよね。
板なんか、一枚だけ。
その板を、バァアアアァァァーーーーッと、雨が叩きつけるように降っている。
隙間から水が跳ねてくる。
雨が入り込んできちゃう。
すごい雨量だ。
「寒いな……なんか燃やすものないかな」
「何にもないなぁ……」
みんなで手探りで探したんですが、何にもないんですよ。
すると、パァッッッッッ!と板の隙間から光が差し込んで、
ガラガラ!ガラガラガラガラ……
すごい稲光!
「うわあ!」
「たまんねぇ、良かったここに入れて……」
そのうち、風が出てきて、ギィーーッヒ、ギィーーッヒ、風で小屋が揺れているんですよね。
ああ、この小屋もあぶねぇな……そんなこと思いながら、みんな、しばし黙ったまま、身をかがめて座っていたそうですよ。
総勢四人です。
「あー寒い!」
「本当、寒いな……結構」
びしょり濡れてますからね、震えてる。
「おい、しょうがないから、ここらで飯にしようや」
「うん、そうだな」って、話になった。
昔の話ですからね、飯っていったて、握り飯ですよ。
普通の塩むすびです。
で、おにぎり出して、みんなに分けた。
「はい」
「おっ、ありがと」
みんな、握り飯持って、寒いなぁ……って話していると、
ピカッ!……バリバリバリバリ!!
雷が来る。
板の隙間から、明かりがサッ!と走る。
すると、瞬間に、みんなの顔がチラッと見える。
小屋の中も映し出される訳だけど、これがなんか、壁なんかも古くて、大分使われていない状態らしくて、カビ臭いし、早い話、廃屋なんですよね。
「いやー、すごいところだなあ」
言いながら、入り込んでくる雨をよけるようにして、四人がそれぞれの位置を決めて、おにぎり持って、座って食べてたの。
と、瞬間また暗くなる……そしてしばらくすると、また、パァアアアアア!と光ってね、中が一瞬明るくなる。
その時に、一人が、前を向いて喋っていたんですが、ふと、しゃべるのやめたんですよ……
ぽたっ、ぽたっ、ぽたっ、ぽたっ……
天井から雨水が落ちてくるんですよね。
ああ、やだな、冷たいな……と思っていると、話をやめた友人が、
「おまえ、なんか……おでこのあたり、赤いぞ……」って言った。
水滴が赤いんですよ、言われた方は、「うん、そうか?」
無造作にふき取ってね、夢中でおにぎりを食べてる。
と、またパァアアアアア!と稲光が入った。
するともう一人が、「アレ、お前だけ赤飯……?」って言う。
「なにが…普通の飯だよ、みんなと一緒だよ」
「だって、おまえ、それ赤飯だよ、赤いよ」
「えっ?」
と、また
パァアアアアア!
みんなで見た。
稲光で見てみると、その彼の握り飯だけ、ピンク色に染まっているんですよ。
「あれ、本当だ…なんでだろう?」
言いながら、また食べてる。
ギィーーーヒッ、ギィーーーーヒッ……
相変わらず風で小屋は揺れているんですよね。
すると、赤飯の彼が、「うん?…なんだ!」と、妙な声を出した。
「どうした?」
みんなが聞くと、「うん……何かがぶつかったぞ」
「なにが?」
「さぁ……」
彼が暗闇の中、上に手を伸ばして、空中をかき回して探していると、
パァアアアアアアア!!
…え?…え?
一瞬明るくなった部屋の上を見た彼が、
「うわあああああああ!」
叫んだ。
他の連中も、見た!
赤いおにぎりの彼のすぐ上に、白い足が浮かんで揺れていたそうですよ。
「うわ!」
みんな、その場で釘付けになったまんま、動けない。
やっと、こわごわと、一人が持っていたライターを点けて、ふうっと、見てみると、足があって……
ボロボロの着物があって……その上の方、暗がりの天井の辺りに…白いものが…こっちを向いてる。
ジィーーーーーッと見てる!
顔なんですよ!
年寄りの……ばあさんの、顔なんですよ……
その口から、赤い水が…ポタポタ…ポタポタ…ポタポタポタ…って落ちて、ヤツのおにぎりに垂れてる……
血なんですよ……
「うわあああああああ!!」
みんな、すごい悲鳴をあげて、小屋を飛び出したそうです。
どうやって帰ったか、わからないけど、すぐ警察に行って、訳を話したそうです。
そして、警察と一緒に、みんなで小屋へ行ったそうです。
それは……地元のばあさんの、首吊り死体だったそうですよ。
まぁ、いろいろと事情はあったかもしれないけど、山に入ったまま、行方不明になっいた、ばあさんの死体だったそうです……
彼らはその下でもって、おにぎりを食べてたんですね……
赤いおにぎりというのは、血に染まったお握りだったんですね……
友人がね、「稲川、この話、本当なんだよ。新聞にもでたんだから……」って、教えてくれましたよ。
(了)
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