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祇園の神隠し

      2017/08/22

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もう一〇年以上前、京都祇園での神隠しの話。

143 祇園神隠し 2013/08/30(金) 07:53:36.15 ID:jzw24ttl0

関東から京都に修学旅行に来た中学生が班行動中に行方不明になった。

男二人、女三人の班で、いなくなったのはそのうち一人の女生徒だった。

班ごとに一つずつ持たせていた携帯電話から担任に連絡が入り、午前11時ごろ、清水寺から祇園に向かっている途中ではぐれたという。

教員と警察は一帯を手分けして捜して回ったがなかなか見つからない。

これは迷子ではなく誘拐ではないか、全ての班を宿に戻らせようか、ならば京都にいる修学旅行生全員を、しかしそんな一大事は容易には……

と騒ぎがいよいよ大きくなってきた午後二時前、渡月橋を一人で歩いている所を巡回中の警察官に発見、保護された。

女生徒はケガもなく、学校と氏名をすらすらと述べたが、放心してそのほかは聞くに答えず、病院に運びこまれた。

翌日、女生徒の語った所によると経緯は次のとおりであった。

建仁寺のの山門を横に見て歩いていくと、ほどなく古い建物の並ぶ通り(花見小路)に出た。

しばらく歩いていくと脇でガラガラと戸を開ける音がした。何気なく目をやると戸を開けた先に信楽焼の狸が立っていた。

「見て、タヌキ」と向き直って他の生徒に声をかけると、「本当だ」「家にもあるぞ」と数秒足を止めて眺めていた。

しかし狸で盛りあがるのも数秒のうち、すぐ飽きてまた歩こうとすると、班のメンバーは黙ったまま、じっと狸を見て動かない。

おや、と思って再び狸のほうを見るが先ほどと何ら変わりない。

「どうしたの?」

と問うも、皆は黙ったままタヌキの方へ歩き出した。

不審に思い「ねえどうしたの、どうしたの」としきりに問いかけるが、答えは来ず、班員はとうとう玄関先にいたって狸をなで始めた。

そのとき妙に冷静になるというか、状況が理解できた気分になって「みんな狸が好きなんだ」と今思えば訳の分からない納得をしていた。

しかし自分も一緒になって狸をなでようという気はおこらず、むしろ遠巻きに眺めるにつれてタヌキが憎たらしく思えてきた。

別に友人が狸に夢中になっていることが悔しいというわけではなく、何かを思い出したかのように狸への嫌悪感が沸きあがってきた。

ドドンという太鼓の音で気がつくと、自分は心の中で「狸は憎い、狸を殺そう」と延々とつぶやいていた。

どれだけそうしていたかも分からなかったが、その太鼓の音で我に返ると、友人たちは両手を狸につけたまま、顔だけこちらに向けて無言で彼女を見つめていた。

「それ狸だよ?なんでダマされるの?」

と叫ぶと、むわっと生暖かい風が吹き、狸の家の引き戸がピシャっと閉められた。

急いで駆け寄るが足元の地面がぐにゃりと伸びていって、ランニングマシーンのようにいくら走っても進めない。

生ぬるい風が運んできたコロッケを揚げたような匂いが充満してきた。

 

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左右を見渡すと人影もなく、怖くなって通りを走って逃げた。

自分はまっすぐ走っていても、周りの景色や地面がグニャグニャと曲がり、意思とは関係なく脇道を何度も曲がりながら走っていった。

何度か立ち止まったが、周りの景色はグニャグニャで恐ろしく、ドドンという太鼓の音が聞こえると、また走らずにはいられなくなった。

しばらくそれを繰り返すとグニャグニャだった景色が整いだして、落ち着くと田んぼの中のあぜ道を歩いていた。

地元でも見たことのないくらい大きなトンボがたくさん飛び回っていた。

手にはすりこぎのような棒と金属製の円盤を持っていて、円盤は装飾がなされたうえにヒモがついていた。これは銅鑼に違いないと思い、それを叩きながら歩いていった。

とにかく人に見つけて欲しいし、万一熊が出るのも怖かった。

銅鑼は一斗缶を叩いたときのようにガララン、ビシャーンと鳴った。

そうして一時間ほど歩いただろうかという頃、ついに田んぼの脇の山から天狗の格好をした人が現れた。

さすが京都、本物の山伏がいるのだと思い、助けを求めたところ、天狗は身振り手振りで言葉を話せないことを伝えてきたので、残念に思いつつも、《無言の行》という修行があると、以前マンガか何かで見たことがあったので、それだと思って納得した。

天狗にしたがって小川の土手に進むと握り飯を差し出してきたので食べた。

食べ終わると、今まで携えてきた銅鑼がなくなっているのに気づいたが、無言の行の最中であるのを思い出したので何も問わなかった。

それまでの疲れがどっと出て、満腹感も相まって眠くなってくると、天狗が自分を背負ってくれたので、そのまま寝入ってしまった。

目が覚めると天狗の姿はなく、公園のベンチに座っていた。

近くに橋が見え、人が多く歩いているのを見て安心したが、自分がいま迷子なのを思い出し、場所をたずねると渡月橋だという。

渡月橋は午後のスケジュールに入っていたのを覚えており、このあたりにいれば誰かが見つけてくれるだろうか、あるいは交番を探すか電話を借りようかなどと思案していると、ちょうど警官が歩いてきたのが見えたので助けを求めた。

それから後のことはよく覚えていないという。

同じ班の生徒によれば、女生徒は急にいなくなったのであり、狸やコロッケの匂いなどに心当たりはないという。

近くを歩いていた別の班の生徒や他の通行人も同様であった。

警察の捜索でも怪しい山伏や銅鑼は発見されなかった。

山伏の中にはこの話を聞いて、何々様の祟りだとか、臨死体験により彼岸を見てきたのだとか言う者もいたが、医師によれば、女生徒の語った内容は誘拐のショックで、だいぶ歪められているとのことで、それがもっともなことであろう。

だが本当にこれは誘拐事件だったのだろうか。

話を聞かせてくれた関係者はこれを神隠しといって憚らなかった。

この未成年者誘拐の一件はすでに時効が成立した。

女生徒は現在二〇代で、地元の菓子メーカーに勤めている。

参考文献

神隠しと日本人-角川ソフィア文庫/小松和彦

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