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婆ちゃんのフラッシュバック

      2016/06/16

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家の暗部を書くようで恐縮だけど……うちの婆ちゃんが呆けてから、暫く経つ。

613 :2011/02/25(金) 02:54:46.52 ID:X0zMHTwP0

呆けたといっても、深夜に徘徊したりとかじゃなく、トイレにはたまに自分で立っていける程度の、軽度な寝たきりみたいな。

かれこれもう二、三年くらいかな?

いつも揺り篭みたいな大きな籐で編んだ丸い椅子に横たわって、厚着してニコニコしてるんだよ。

赤ちゃんじゃないけど、赤ちゃん的なお婆ちゃん。

俺も大学で実家を離れてから、一年に一回も帰らないんだけど、たまに帰ると婆ちゃんに話しかけるんだ。

「婆ちゃん元気?」とか、「アイス食べる?」とか言うと、ニコニコして「はい、ありがとうございます」とか、「ほんにお世話になります」とか返す。

俺を孫とは認識してないっぽいけど、いとおしいお婆ちゃん。

そんな婆ちゃんと、父ちゃん母ちゃんの三人暮らしの実家。

今年の正月二日

数年ぶりに親父の兄弟、俺から見たら二人の叔父さんが集まったんだ。

故爺さんの家族大集合的な。

爺さんが元気だったときは、よく正月に一族で集まったもんだけど、今回はイギリスに長期赴任中の叔父さんが帰ってくるから、折角だから婆ちゃん囲んで宴会しよう、みたいなことだったらしい。

言い忘れたけど、実家は九州の超田舎。家の隣は藪とか裏山とかそんなレベル。

長兄である親父は、久々に自分の兄弟達がそろうことに、目茶目茶テンションあがってた。

中でも末弟の叔父さんは、数年ぶりに日本へ帰るとかで、超久々に会うこともあってか、また、自分が働いて大学まで行かせる程可愛がってたせいなのか、前日である元日からそわそわしてるほど。

二日の昼前。

先ず隣の市に住んでる叔父さん(次男)夫妻と、俺の1コしたの従兄弟がやってきて、昼を少し回る頃には、イギリスの叔父さんも一人で(バツ1)やってきた。

朝からせわしく宴席の準備に奔走してた母ちゃん、そこへ助っ人の叔母さん達も加わって、一時前には宴会の準備が整った。

座卓を2つ並べお婆ちゃんを上座に配し、続き親父、叔父さん達と皆が揃う。

ご馳走が運ばれ酒が並ぶ卓上を見て、何が始まるのかとニコニコしてる婆ちゃんの横で、親父が年始の挨拶をぶった。

一人年の離れた長兄であることもあって、かかなりの親分風を吹かす親父。

そんな親父の見た目や喋り方が、死んだ爺さんに近づいたことを、イギリスの叔父さんは笑いながらからかった。

答えてガハガハ笑う親父、それがまた爺さんに似てるらしく、叔父さん達は爆笑した。

寒い中縁側を開けて薄く日が差して、暖房を焚いて少し暖かくて少し肌寒くて、凄くいい和やかムードの正月。

親父の新年の挨拶を皮切りに宴会がスタート。

久々に会う兄弟、一族、母ちゃんの気合入りまくった料理で、親父のテンションMAX。

もう真っ赤な顔でガハガハ笑い最高潮。

軍人気質だった死んだ爺さんの物まねで、「気をつけぇッ!」とか言って笑ってる。

叔父さん達も、兄貴は兄貴はみたいな感じでヨイショして、本当に楽しい宴になった。

宴もたけなわな中ふと見ると、上座に置いた籐の椅子の中の婆ちゃんが、珍しく不機嫌な顔でいる。

不機嫌と言うか何か言いたげな、不満げな、そして少しおどおど挙動不審的な。

皆が婆ちゃんを無視してるからかな?と思い、「婆ちゃん大丈夫?」と話しかけても、下を向いて返事は無い。

普段婆ちゃんのお世話をしてる母ちゃんが、朝から宴の準備で忙しく動き、婆ちゃんの世話まで回らんからかな?と思うも、俺も従兄弟たちと話が弾み放っておいた。

暫くして従兄弟が、婆ちゃんのおかしな様子に気がついた。

ブツブツと何やら小声で囁いてる。

話しかけてもこちらを見ず、頑な顔で前を見て訴えるように囁いている。

何やろね?疲れたんかいな?もう寝たいっちゃない?と言う話になり、親父が「おう、じゃあ婆ちゃん部屋に連れけ」と母ちゃんに言った。

それなら皆で写真撮ろうかと言う話になり、カメラを掴む俺。

婆ちゃんを囲み、うちの一族が集まった。

「はい、チーズ」とシャッターを押す。

光るフラッシュに婆ちゃんがハッとし、弾けるように叫びだした。

「シゲルー!この男じゃ、父様を殺したのは!」

震える指で横の親父を指差す婆ちゃん。

シゲルと呼ばれて固まるイギリス叔父さん。

そして、婆ちゃんの言葉の内容に困惑する一同。

凍った空気の中、狂気の婆ちゃんが続ける。

「こん男が父様を殺してお前を捨てたとぞ!こん男が。カワシマの藪で父様をうっ殺して、お前を捨てるようにおいに言ったと」

瞳孔がしまり、泡をためた口で繰り返し叫ぶ婆ちゃん。

皆が押し黙り、凍った空気の中で婆ちゃんの怒声だけが響く。

「おい、婆ちゃんを連れて行け」

母ちゃんに怒鳴る親父。

母ちゃんがおろおろしながら、婆ちゃんを抱えるように立ち上がった。

母ちゃんに抱えながらも、振り返って髪を振り乱して父ちゃんを睨む婆ちゃん。

「人殺し、人殺し。シゲル許してくれ」と。

うちの田舎で、解決してない殺人事件がある。

昭和の昔、カワシマの藪と呼ばれる裏の小山で、地元の地主の男が鉈で打ち殺された事件だ。

事件は昭和の動乱の時代、田舎のせいかろくな捜査もなく、迷宮入りとなったらしい。

婆ちゃんはその被害者の元奥さんで、後に爺さんの後妻に入った。

その後程なく、地主と婆ちゃんの子供さんであるシゲルさんは、他所の町に貰われていったのだとか。

戦後、大陸から着の身着のままで帰った貧農出の爺さんが、何故に大きな屋敷を構えるまでなったのか、子供一同が悟った瞬間だった。

一月の終わりに、婆ちゃんが施設に入ることになったと聞いた。

何の記憶がどんな形で蘇ったかは分からないけども、どうも親父に怯えてるし、呆けが進行し通常の生活が困難になったからだとか。

そう言えば、爺さんの若すぎた死にも不振な点があったらしい。

死因は心不全だが、突発的な呼吸障害による……云々だとか。

婆ちゃんが明け方に父ちゃんに電話してきて、『爺さんが息しとらん』に始まり、怒涛の葬式だったが、部活も忙しく、喪中でも朝連に行ってた俺はよく事情を知らない。

散乱した情報を拾い集め、背景を想像するのがほんのり怖い。

また一族集まることあるかな……

(了)

 

独白するユニバーサル横メルカトル 平山夢明短編集

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