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死霊死号室(404号室)【ほんのり奇妙な物語】

      2016/12/13

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「404号室を借りたいのだが……」

そのおかしな奴は言った。

妙な注文を出す奴はよくいるが、こいつはその中でも注文も外見も飛びきり風変わりだった。

顔は浅黒くて、背はひょろんとしている。

声は無理やりしぼりだしているようなかすれ声だった。

おまけにこの暑いのに全身真っ黒なコートにくるまってやがる。

「えーっと、何度も説明致しました通りですね。このビルには404号室は存在しないのです。縁起が悪いとオーナーがおっしゃってましてですね。こちらのように」

と言って私は見取り図を見せた。

「403号室と405号室の間に部屋はありませんのです」

これを説明するのは何度目だろう。

「知っている……404号室がないのは知っている。でも借りるのだ」

こいつは白痴だろうか?それともどっかのやくざが因縁付けに来たのか?冗談じゃない。

こっちはまっとうに商売してきたつもりだ。

「何度も説明したとおりですね。ないものはないので、貸しようがないのですよ」

「それは分かっている。金は払う。そちらは404号室を貸すと言う書類をつくって私と契約してくれればそれでいい。部屋はなくてもいいのだ」

こいつは、気違いだ。間違いない。私は堪忍袋の緒が切れて声を荒げてしまった。

「おい、あんたいい加減にしないと警察を呼ぶぞ。冷やかしならさっさと出て行けよ!」

騒がしくなってきたことに気づいて所長が事務所の奥からのっそり出てきた。

むかっ腹が立っていた私は所長にいままでの経緯をまくし立てた。

私から全ての経緯を聞いた所長は

「お客様、詳しいお話をお聞かせ願えませんでしょうか」

と言うと今まで私の座っていたいすに座り、妙な客と話し始めた。

「あ、申し訳ないが君は席をはずしてくれないか?」

まあ、所長の好きにさせるさ。手に余るに決まってる。

無い部屋を借りようだなんてバカな話は聞いたこともない。

私は事務所の奥に引っ込み、所長がいつまで我慢するのかみてやろうと、聞き耳を立てていた。

「いや、うちのものが失礼致しました……」

などと所長が謝っているのが聞こえたが、やがてひそひそ声しかしなくなった。

いつ切れるかいつ切れるかと30分もまっただろうか、うとうとしかけたころ、

「おい、君。話がまとまったぞ」

所長に声をかけられた。

「このお客様に404号室をお貸しする」

バカかこの所長は?この夏の暑さで気でも狂ったのか。

「でも所長。ないものをどうやって」

「いつものとおりだ。書類を作って手続きをとる。お互いに404号室については納得済みである。なんの問題もない!!」

「大ありですよ。オーナーにはなんと言うのです」

「さっき、確認をとった。家賃さえ払ってくれるなら細かいことは気にしないそうだ」

めちゃくちゃだ。

「役所にはなんと」

「無い部屋なんだから、報告する必要はない。黙っていればいい」

それでも所長か。

「問題は全て片付いたようだな……では書類を作ってくれ。金はここにある」

黒尽くめの男が陰気な声で言って、手元のかばんを開けると札束を取り出した。

「はい。直ちに作りますので、少々お待ちください。ほら君早くして!!」

ご機嫌なった所長に言われて、私はしぶしぶこのバカな話に付き合った。

書類を作り、奴にサインを求める。

奴め、手まで真っ黒だ。

妙な筆跡で読みづらいが名は『NYARU HOTEP』とか言うらしい。

手続きが終わると、

「では、邪魔したな。これから引越しの準備があるのでこれで失礼する……」

そいつは事務所から出ていった。

「所長、おかしいですよ。どう考えても。変な犯罪に巻き込まれたらどうするんです」

「変でも変でなくてもいいんだ。金を払ってくれるんだから別にいいじゃないか。無い部屋を借りようなんてよく分からんが、まあ世の中にはいろんな人がいてもいいだろう」

「でも引越しとかいってましたよ。どっかの部屋に無理やり住み込まれたらどうするんです」

「そうしたら追い出すだけさ。貸したのはあくまでも404号室だ。404号室ならいいが、それ以外はだめだ」

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それから、一週間後。

退去者がでるので、件の貸しビルへ明渡と現状の確認に訪れた。

一週間前のことを思い出して、4階の様子もみてみようと思ってエレベータで4階に行くと……そこには404号室があった。

大方、例の奴がどこかの部屋に無理やり住み着いて、部屋のプレートを書き換えてるんだろう。

所長め、やっぱり厄介なことになったじゃないか。

ベルを鳴らすと真っ黒の奴が部屋の中から現れた。

「ああ、この間の方か……、何か用かな?」

「おい、あんた何をやってるんだ。借りるのは404号室を、と言う契約のはずだぞ」

「見ての通り。404号室だが。何かおかしなことでも?」

すっとぼけてやがる。

「ふざけるなよ。そういうことをすると警察の厄介になるぞ。早く荷物をまとめてでていけ」

「残念ながら、君の考えているようなことはしていない。よく確認して見たまえ」

私は4階の部屋の数を数えた。見取り図では401から405まである。

そのうち404号室は、存在していないわけだから4部屋あるわけだ。部屋が4つだからドアも4つ。単純な計算だ。

しかし、ドアはなぜだか5つあった。

「そういうわけだから、お引取り願おうか……」

奴にバタンとドアを閉められたが、こっちはどうしても納得がいかない。

やけになって他の全ての部屋にあたってみることにした。

—401号室の住人
「え、404号室はなかったんじゃなかっったって?んーーそういえばそんな気もするけど今あるってことは最初からあったんだろう」

—402号室の住人
「404号室ですか。確かに最初はありませんでしたよ。いつのまにか出来て人がすんでるみたいですね。ちょっと変だけどまあ、特にこっちに迷惑がかかるわけでもないし……」
—403号室の住人
「お隣さん?引越しの時に挨拶したけど別に普通だったよ」

—405号室の住人
「隣の方ですか?黒ずくめでかっこいいですよねえ。俳優さんかな」

どういうことだ!?

他の階に行ってみると全てドアは4つだ。

4階だけ5つあるってことは、404号室の分だけどっかから沸いて出てきたってことになるじゃあないか。管理人にも聞いてみよう。

—管理人
「404号室に引っ越すって言ってきたときはなんかの間違いだと思ったけど。あの人と一緒に4階に行ったら本当にあったねえ。びっくりしたけど、世の中はいろいろあるからねえ。書類もきっちりしているし、オーナーも承知だし何の問題もないだろう」

「何か変わったことはないですか?」

「お客さんが多い人みたいだよ。妙にのっぺりした顔の人が多いね。前に仕事を尋ねたときが あるけど、相談所なんかをしてるみたいだよ。お国の人の悩みを聞いてあげてるそうだよ」

隣の部屋のやつらも管理人ももっと不思議がれよ。都会人が他人に無関心というのは本当らしい。

もう一度4階に行ってみようと思い、奴の部屋のベルを再び鳴らす。

「また、あなたですか……いい加減にしていただきたいな」

「ちょっと、部屋の中を見せてくれないか」

「断る……私は金を払ってこの部屋を借りている。あなたに勝手に入る権利はない……」

その通りだ。しかし、どうしても我慢できない。

無理やり中をみてやろうと、奴を押しのけるように部屋に入ろうとした。

そのとき、ゴツンと何も無い空間に手ごたえが合った。

なんだこれは!?何も無いのに、まるで防弾ガラスでもあるようだ。

「部屋は用も無いものが入ることを許さない……」

「私は管理会社のものだぞ」

「だからと言って無断に立ち入る権利はない……」

くそっ!その通りだ。

奴と問答していると、エレベータが開いて人の声がした。

「お、ここだここだ。えー404号室か。あ、こんにちはー、ご注文のものを届にきました」

「待っていた……この部屋だ。運び込んでくれ」

「はい、わかりました」

そういうと業者は、私がはじかれた空間を何の抵抗も受けずに通り抜け、部屋に入っていった。

「おい、どうしてあいつは入れるんだ」

「彼は荷物を届けるのが仕事であり、ゆえに部屋に入らなければならないからだ……」

筋は通っている。

なんとか私も用事を考えようとしたが、駄目だ。何も思いつかない。

この場は引き下がるが、絶対に部屋の中をみてやる。

どんな手品かしれないがタネは絶対にあるはずだ。そのからくりを暴いてやる。

それからは、仕事も手につかなくなった。

なんとか奴に一泡吹かせてやろうと、色々考えたがどうしても用事が思いつかない。

「君、最近ふわふわしているがどうかしたのかね」

所長に声をかけられた。

「あ、実は……」

と今までの経緯をすべて話すと

「ふうむ、君それはいけないよ。お客様のプライバシーに踏み込むようなことはしちゃいけないなあ」

「でも、奴は住んでるんですよ。404号室に」

「確かに不思議だが。しかし家賃はしっかり払ってくれている。管理会社としてそれ以上なにを望むんだね」

「妙だと思いませんか」

「思わんね」

「なぜ?」

「金は払ってくれているからだ」

埒があかない。

「お客様に迷惑をかけたりするようなことがあれば、君の査定にも影響してくるぞ。さあ、くだらないことに迷わされていないで、しっかり働くんだ」

くだらない?くだらないことか?所長も管理人も他の住人もどうかしてる。

しかし、遂に私の疑問も解ける時が来た。

一ヵ月後のことだ、

「ああ、君。こないだの404号室の方が退去されるそうだ。明渡しに立ち会ってくれ」

やった。とうとう用事が出来た。これはケチのつけようがない立派な用事だ。

退去する時とは残念だが、必ずタネを暴いてやる。

「くれぐれも失礼なことはするなよ」

404号室のベルを鳴らす。

「やあ、入らせてもらうよ」

ドアが開くや否や足を踏み出す。よし!今度ははじかれることもなくすんなりと部屋にはいれた。

こんなにあっさり入れるとちょっと拍子抜けするほどだ。

「はやく確認をすませてくれないか……」

黒ずくめのゴキブリがなんか言ってるが知ったことか。

私はとうとう入れた部屋の中をじっくりと確認した。

何かおかしなことはないか、どこか妙なところはないかと必死に探した。

しかし小一時間も探したが何一つ妙なところはない。ごく普通の部屋だ。

私はすっかり困り果ててしまった。

「参った。降参だよ。いったいどうやったのか本当に知りたいんだ。教えてくれないか」

「なんことだ……」

「この部屋だよ。どうやって一部屋余分に繰り出したんだ」

「私は何もしていない。契約だから部屋が出来た。契約終了と同時に部屋は消える…… もう確認は済んだだろう。私は帰らせてもらうが、あんたはどうするんだ」

すっとぼけやがって。何が契約だよ。うまいこといいやがってきっと何か秘密道具でもしかけてあるんだろう。何がなんでも探してやる。

「ああーーいいとも。確認は終わったよ。きれいなもんだ」

「一緒に帰らないか……」

こんな薄気味の悪い奴と並んで歩くのなんてまっぴらだ。

「クク……では、お先に……」

そういうと奴は部屋を出て行った。

それから奴が帰ったあともひたすら部屋の中を探ったが何もわからない。

気が付けば外も薄暗くなってどうやら、もう夕方のようだ。

「一旦帰るか」

私はドアをあけて帰ろうとした。が、ドアが開かないのだ。カギをいじくってもだめだ。

いやな予感がして窓を開けようとした、これも開かない。ベランダにもでれない。

ふと時計を見る、午後3時。なのにどんどん暗くなっていく。

外から歩く音がする。4階の他の住人が廊下を歩いているようだ。

ドアをたたき「おーい、あけてくれ」と叫んだ。

住人はまったく気づかず通り過ぎる。

そもそも何で外が薄暗いんだ。今はまだ3時なのに、なんで暗くなるんだ。

外を見ると今までの光景と全く違っている。

今までは外に見えていたのは普通のどうってことない町並みだ。なのに今外には何も見えない。真っ暗な空間がぽっかりあるだけだ。

それから半年が過ぎた。

奴の言葉が思い出される。

「契約終了と同時に部屋は消える……」

もしかすると、部屋は消えたくないんじゃあないのか。

契約終了ってことは、つまり私が現状確認をしてこの部屋を出ていくことだ。

つまり私がこの中にいるかぎりこの部屋は存在できる……

部屋は私を死なせたくないようだ。

備え付けの冷蔵庫の中にはいつも食料がたっぷりだ。

どういう仕組みか水もでるし、電気も通っている。

ここから出たい。

私は一生このままなのだろうか……

(了)

 

ふたり怪談(5) [ 黒木あるじ ]

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